第273回 今どきの地域起こしから学ぶこと

 手作り市やB級グルメ対決等、地元住民が自ら企画運営しての地域起こしが盛んだ。

 普段は閑散としている町に、どこからこんなに人が集まってくるのだろうと感心する。
 休日には、JRの駅から数時間かけて町の隠れた魅力ある場所を散策するイベントも、多くのアクティブシニアで盛況だ。
 
一昔前は、国の政策で補助金を使った町並み整備が全国で行われた。たしかに道路はきれいになり、おしゃれな街灯も取り付けられたのだが、肝心の人はいっこうに集まってこなかった。

 町の魅力はハード整備だけではよみがえらないという結果である。

 昔、町が賑やかだった頃は、人と人とのコミュニケーションが活発だった。そのふれあいの場が商店街であり、広場だったのである。

 時代は変わっても、自分が共感すること、ワクワクするところには自然と足が向く。そのしかけを地元の熱い人々が自ら行うからこそ、人は魅力を感じるのだろう。

 毎週のように開催される心のこもった地域のイベントは町の活性化の起爆剤として、新たな元気を生み出している。さて今日はどこへ出かけようかと模索している人々は確実にいるのである。

 今まで観光とは無縁だったところが、このような取り組みをすることにより、人々はその意外性に興味を覚え、気軽に足を運んでいる。

 これに対し、既存の観光地・温泉地はどうだろうか。積極的にイベントに取り組んでいるところと、もはやその元気がなくなってしまったところとに大きく分かれてしまっている感がある。

 消極的な部類に入るのではないかと思われる、ある温泉地の旅館経営者は、いくらイベントをやっても宿泊には直接つながらないと言っていた。

 たしかにそうかもしれないが、その温泉地では昼はおろか、夜の旅館も閑散としているのである。これは経験則からであるが、昼間歩いて寂しい温泉地は、夜も寂しい場合が多い。

 まずは、その土地ならではの伝統や食材を使った手作りのイベントでとにかくその土地に足を向けてもらう。ここから再スタートを切ることが、既存の観光地にとって重要なプロセスだ。

旅館単独での集客力の限界を感じているのであれば、なおさらである。

第272回 リスケがしやすい環境の中で

 「中小企業等金融円滑化法」が施行された。当初は金融機関がどの程度融通が利くようになるのか疑問視されたが、いざふたを開けてみると、かなり借り手からすればメリットがある法律である。

 例えば、旅館が資金繰り上、借入金の返済額がネックになり返済条件の変更をメインの金融機関へ相談したとしよう。メインの金融機関は他の金融機関や信用保証協会等と連携を図りつつ、できるだけ適切な措置をとるよう勤める義務がある。

 これは今まで約定どおり返済してきた旅館の例であるが、メイン銀行の対応は素早く数日で返済を一年猶予する内定を決めた。この方針について協調融資をしている数件の金融機関に伝えたところ、全てがメイン銀行に同調する旨の回答を得たのである。

 これまではリスケの相談に出向くと、何度も計画書の作成を求められ、金融機関の支店から本部へあげられるまでかなり時間がかかったものだ。その結果、旅館が期待する回答が必ずしも得られるとは限らず、資金繰りが厳しい旅館にとっては、さらに経営状況が悪化するケースも多々見られたのである。

 今回、この法律の施行により、各金融機関が速やかな対応を行っているかどうか、金融庁のチェックが厳しくなると金融機関側が踏んでいることもあり、少なくとも現時点では概ね金融機関の対応は対象となる企業にとっては順風が吹いている。

 したがって、リスケを希望する旅館としてはスムーズに決済を得るためにも、必ず必要となる資料の作成はできるだけ早く済ませておくことが望ましい。

 計画書のフォームは金融機関ごとに異なるが、相談時点で要求される内容はほぼ同じだ。

主な項目は、当社の現状・問題点、具体的な対策と達成期限、計画の概要、計画の効果、そして損益計画・予想貸借対照表、資金集計計画等である。

 特に具体的な対策については提供商品の見直し、内部体制の確立、コストカット、販売促進策等について、行動するためのガイドラインを早急に作り上げることが大事だ。これは金融機関に提出するということ以上に、リスケの期間に自主再建を果たすための意気込みと実際の行動計画としての意義が大きい。
 
このチャンスを是非活かしてほしい。

第271回 選ばれる旅館づくりが必須

 二十年ぶりである旅館経営者と会う機会があった。その当時の思い出が一気によみがえった。

 バブル全盛期、旅館は設備投資のラッシュだった。金利は7%後半、坪単価百数十万という今では考えられない数字が並ぶ。それでも高額な投下資本を回収するだけの根拠として、消費単価二万五千円、定員稼働率五十五%という数字が当時の経営計画書に記されている。

 これが二十数年続く前提で設備投資が行われたのである。ところがこの当時の借入金がほとんどそのまま残っている旅館も少なくはない。

 このバブルに入る前、昭和五十年後半のある総合案内所が発行した販促資料には「ポッキリ一万円」という宿泊単価が売りのシリーズがあった。

 それから二十数年、その当時の宿泊単価より、さらに低い金額での攻防に巻き込まれるとは誰も想像することはできなかった。

 このように、いい時代の数値を基準に長期の計画を立てるととんでもないことになる。そんな状況は決して長く続かない。だからこそ、現在のようないわゆる底の時代でも利益が出る旅館のビジネスモデルを確立させなければならない。

 景気がよかった時代は極端な言い方をすれば、隣の旅館を真似すればよかった。それだけ多くの宿泊客があふれていた次代だったから、その当時の流行を取り入れた施設やサービス・料理スライル・企画ものが全国に溢れていた。

 しかし今となっては、この成功体験が全く通用しなくなってしまった。及第点をもらえる商品を提供することと利益をあげることとは相関関係にはないのである。

 これからの時代、人を引き付ける魅力とはなにか?あたらしいブランド力とは何か?それは今までの流れや考え方の延長線で、商品を作り変えたところで、消費者はその変化には気づかない。

 選ばれる旅館になるには徹底したこだわりを提供商品に落とし込む必要がある。それはその旅館の元来持っている強みであり、その旅館経営者の最も得意とするものであるべきだ。

 中途半端では決して生き残れない。ここまでやるのかと感心されるまで宿の魅力を作りあげなければ、顧客から選ばれる旅館にはなり得ない。

第270回 経営計画の「見える化」を実現する

 3月決算の時期だ。新年度計画実施のスタートラインにたった旅館も多いはずだ。

 先がなかなか読めない時代の中にあって、どのような根拠で計画立案をしているだろうか。一番多いのが前年実績をもとに、これよりも若干いい数値を目標とするものだ。さらには目標利益から逆算して理想とする損益計画をつくり、月別波動を盛り込んだものが多いようだ。

 旅館独自の考え方がベースで作成された計画書は、今年度の具体的な目標数値として尊重し、確実にクリアするために行動することは結構なことである。

 しかし、意外に多いのがこの計画値と実績の差異を毎月の幹部会議で報告し、その原因を担当責任者が述べるだけに留まっているケースである。

 例えば、現場のスタッフに今月の目標売上高を聞いても答えられないということもある。また、目標値は事務所に掲示されていても、これを達成されるための入り込み数・目標単価・重点実施方法について認識が共有されていない例も多い。

 これが徹底されないと、業務をこなすことだけになりマンネリ化してしまう。それでも結果がよければいいかもしれないが、現実は売上の減少傾向が続いているとしたらそんな意識では業績向上は望めない。

 売上を構成する旅館の部門は、それぞれ独立しかつ緊密な連携をもった会社であるという認識がベストである。

 だから、計画は社長や財務担当者が数字合わせで作るのでなく、部門ごとに売上・原価・経費・利益額の算定とその根拠、達成方法を検討、作成して積み上げられたものでなくてはならない。それと経営的な面から求められる目標利益との調整を図るプロセスを経るのがよい。

 こうすることによって、自分たちがどのようにして目標数値を達成させるかを考え、実践することで仕事に対する捉え方が全く変わってくる。

 経営計画は絵に描いた餅で終わらせるようなことは許されない。全体計画は部門別計画と完全に連動し、この数値を達成させるために何をすべきか?そしてその結果がはっきりとわかるしくみをつくることが重要である。

 経営計画の「見える化」は旅館にとってさまざまな利益をもたらす。