第314回 「見える化」がもたらす効果

 旅館経営を見直し、内部体制の改善を図っていくうえにおいては、あらゆる面での「見える化」が、極めて重要である。

 ある旅館では、この「見える化」を共通のキーワードにして、個々の課題の克服と改善に取り組んでいる。

 例えば、食器の破損について。
 
 これは今まで毎日破損した食器の現物を事務所脇のダンボールに置き、破損品名と発見場所、破損原因を一覧表にして公開していた。

 スタッフに対して現場での破損を減らすための意識付けを狙ったものである。
 
 今回、さらにその意識を高めるための工夫として、破損品別の購入価格と、その合計額も記載することにした。

 その結果、一ヶ月で約五十万円にのぼることが判明した。

 これまでは、毎日多くの破損が発生すると、漠然とわかってはいたが、それを金額に落とし込むことによって、スタッフ全員が破損による損失を金額で意識することができるようになったのである。

 この旅館では備品類のたな卸し表に金額欄を新たに設け、記入していくという、作業が同時に行われている。

 これら一連の金額による「見える化」は、確実に意識の上で変化をもたらしている。
 
 現金はその価値をはっきりと示すことができるが、それがいったん物に代わり館内で巡るようになったとたん、その意識がとたんに薄らぐものである。

 大量に眠っているパンフレットやチラシの山や、忘れられてしまった食器や舟盛りの器。
 
 これらは粗大ごみなのか、それともまだ使える価値のあるものなのかという意識のないまま、それなりの金額が在庫として眠っていたのである。

 「見える化」は営業管理にも効果をもたらした。
 
 例えば、案内所別実績。

 過去一年間に送客のあった案内所を売上高、人数、客単価、年間会費、手数料までは捉えていた。

 これに、エージェント手数料、通信費、交通費、同行費、接待交際費を含めた経費合計と比較し、どの案内所と付き合うか。

 また費用や料金折衝、休日・平日別の送客交渉に使うようになったのである。

 これら一連の「見える化」は、今まで隠れていた課題の背景と、その重みを数字に表すことによって、とても明快になった。

 そしその課題をクリアすることにより、数字が改善される過程がはっきりと見えてくるのである。

第313回 大震災と今後の対応について

  震災に遭われた地域の方々におかれましては、心よりお見舞い申し上げます。

 さて、このような全く予期せぬ外的要因の劇的変化においては、今後どのような推移をしていくのか、予想がつかない。

 これは復旧までの期間がある程度読めるものもあれば、人々が観光目的で動く余裕が出てくるまで、どれくらいの期間がかかるかというようなことについては、かつて経験したことのないことだけに、相当程度としか言えないのが現状だ。

 先の見えないことに対して心配したり悩んだりし続けていても仕方がない。

 今、優先的に行うことは何か。まずは情報が交錯し、二転三転する中で、冷静に事実を把握する体制を確立する事である。

 そしていきなり違う方向に物事が動くことをたえず想定しておくことが大切だ。

 また、キャンセルが相次ぎ、全館休業状態が続く事態が予想される。

 これに伴い当面の資金繰りに大きな影響がでてくる場合がある。

 資金繰り表は日繰りレベルでエクセルに落とし込む。

 そしてクーポンの決済日とともに予約状況からの現金売上予想について、タイムリーな変更が必要だ。

 そして少なくとも1ヶ月先までの見込みを常に視野に入れながら、支払い状況を加味して現金残を予測すべきだ。

 そして業者への支払いや人件費等支出の調整、金融機関や商工会・商工会議所等、今後予想される緊急資金の貸付について、早めの打診が賢明だ。

 そのためにも、刻々と寄せられる情報と現実を、可能な限り正確に捉え、自館の影響を予測して具体的な数値に落とし込んでおきたい。

 また、旅館内の内部体制を再度しっかりと固め、経営者の指示のもと、迅速に動くための情報伝達の仕組みを確立してほしい。

 一方、旅館組合や観光協会においては、正確な情報を得にくい旅館もあるだろうから、組合員に対して十分な情報提供を行うように全力で取り組んでいただきたい。

 春休みを目前にして、とんでもない災害が発生し、この影響が今後出てくるが、とにかく冷静に、しっかりと地に足をつけての対応が求められる。

 今はみんなでスクラムを組んでこの最大の危機に向かっていくしかない。

第312回 「まずまず」から「ダントツ」への脱皮

 ある大規模旅館でモニリング調査を実施した。

 これは継続コンサルティングの初期段階で行う実泊による覆面調査のことである。

 単なるあら捜しではないかという批判も聞くが、われわれはむしろ対象旅館の良さや、伸びる可能性がどこにあるのかといった観点から旅館を見ていくことにしている。

 悪いところは顧客のアンケートや口コミサイトですでに指摘されており、これはその背景や原因をしっかりと突き止め、根本的な改善を図っていけばいい。

 そもそもなぜコンサルティングの依頼があったかといえば、年々売上高が減少し続け、金融機関の支援体制もそろそろ限界の時期に差し掛かってきているなかで、この旅館の再生が成り立つ可能性があるかどうかを見極めることが必要だったからだ。

 さて宿泊後の率直な感想は、「まずまず」の旅館であった。施設はところどころいたんではいるが、清掃はきちんと行われ、付帯部門もそれなりに充実している。

 料理は地元の食材を積極的に取り入れ、話題性のある提供方法を確立している。サービスは特に男性のきびきびした接客が印象的であった。
 
 つまり、細かいことはいくつか気になる点はあるものの、支払った料金に対して違和感を覚えることはなかった。
 
 ではなぜ売上高が減少し続けているのか。

 これは多くの中・大規模旅館にもいえることだが、リピート客の減少、団体客の減少、宿泊単価や消費単価の低下傾向といったことが数字を追えば一目瞭然だ。

 この点についてはいまさら説明する必要もないだろう。
 
 今までどおりまずまずの商品を提供し、既存エージェントへの営業回りをしているだけでは、利益を生み出し、キャシュフローがまわる体質には転換できないということは明らかだ。
 
 課題は顧客があの旅館に行ってみたい、またまたリピートしたいという強い気持ちを抱くようなダントツの商品力がないことである。
 
 他を圧倒するものを作り上げる場合、その旅館が持っている潜在的な力を、選択と集中のパワーを持って一気に作り上げなければならない。
 
 だからこそ、その旅館ならではの良さにこだわるのである。
 
 今まさにまずまずからダントツへの脱皮が必要不可欠な時代なのである。

第311回 ぶれてはいけない意思決定の判断基準

 毎月定期的に訪問している中規模の旅館がある。

 この旅館では、1ヶ月単位で各部署の課題を抽出し、改善のための方向性と具体的な対策を決め、行動に移し、その結果を検証している。

 この1ヶ月サイクルのPDCAを繰り返すことは、旅館全体のレベルアップを図ることが目的であり、その機軸は「顧客により喜んでもらうことにつながるか?」という判断基準で意思決定をしている。

 月1回の会議では、前回の宿題の確認からスタートし、実施状況や結果の報告の後内容について協議が行われる。

 ここでいつも出てくるのが、動きが早く、結果が出て次の課題に取り組む部署と、いつまでも同じことを繰り返し、全く先に進まない部署の差である。

 最終的な指示は、その場で社長が直接下す。案件の内容はそれぞれ異なるが、与えられた期間等の条件は同じである。

 しかし、1ヶ月前に担当責任者本人も同意のもと、決めたことがいっこうに進んでいない部署の報告を聞いていて共通することがある。

 それは①与えられた課題を克服するための1ヶ月間における行動計画がたてられていない。

 ②間際になって慌てて行うので、思惑どおりにことが運ばず、結果が伴わない。

 ③ずさんな結果を報告せざるを得ず、その理由を問われて、他人や周りの環境のせいに責任転嫁する。

 ④繰り返すパターンに、その責任者に対し、周りからの信頼はすっかりなくなり、結果として組織としての円滑な動きが損なわれる、というサイクルだ。

 この担当者には以前から社長自ら厳しい指摘をするとともに、何度となく挽回のチャンスを与えてきた。

 しかし結果として本人はその考え方や行動パターンを変える気がないのかそれともできないのか、今もって変化がない。

 この人に対する社長の判断は、部署の異動であり、それでもその部署で期待される結果がでない場合は、退職である。

 その理由は、顧客により喜んでもらうため自分が行うべきことをまっとうできないからだ。

 この判断基準は極めて明快であり、顧客・旅館・本人の全てにとってベストな洗濯だ。