第281回 オペレーションの現状を「見える化」するメリット

 業務のオペレーションを改善し、よりいっそう旅館のレベルをあげることは、経営者の大事な仕事のひとつである。

 このことについては誰も異議を唱えない。しかし、これを徹底して実行し続けているかどうかにおいては、旅館によって相当の差がある。

 現場に対して長い間実施してきたオペレーションの方法を変えようとすると、必ずといっていいほど反発がおこる。

 それは今までの方法に慣れ親しんできたわけだから、新しい方法に変えていくには結構労力が必要となる。これがしんどいため、なるべく今までどおりの方法が現場ではベストなのだと主張する。

 しかし、このことに妥協して現場にノータッチを続けていると、そこから音を立てて崩れてくることがある。

 ある旅館では、営業マンの管理を経営者が全くせずにいた。年々エージェントからの集客が落ちるのにもかかわらず、あいかわらず同じ動きしかしていない営業に、メスを入れた。

 まず、各営業マンがエージェントの訪問予定一覧表を作成し、部門長から形だけの承認を得る。そして各自訪問営業を繰り返し、その結果は日報記述と月一回の営業会議で口頭での結果報告に留まっていた。

 これが、長い間続いていた営業部門のオペレーションである。経営者が知りたいことは、どのエージェントがどれだけの売上・利益・集客の貢献をしているか?それに対するコストはどれだけかかっているかをもとに、経営効率上、最適なエージェント営業を実施することである。

 したがって、訪問目的、営業内容、結果とその履歴、交通費・接待費等も含めたコスト、実績(売上・単価・集客人数)を月別・営業マン別・エージェント別に「見える化」の実施を指示したのである。

 営業の現場からすると、「ぬるま湯」に使っていた部分が明確になるため、理屈をつけてできない理由を探してくる。

 でも、この旅館経営者は、経営力のアップのために必要な業務改善には摩擦をおそれない信念をもった。

 経営の意思決定の判断を間違えないためには、現場の事実を把握することが非常に重要であることを身をもって体験した。

第280回 安易な宿泊単価のダウンは命取り

 地域の観光イベント強化や高速道路のETC割引の効果等が重なり、観光地としての入り込み数が増えたという話を聞く。ところがそれにもかかわらず、宿泊客数は減少したという地域が多い。

 ある旅館では、減少傾向に歯止めがかからない団体客の増加は見込めないと判断し、グループ・個人客に的を絞った集客にシフトした。

 そこで出した経営の見通しでは、定員稼働率は減少するものの、客単価アップでその分を補填しようとする目論見があった。

 しかし、当初計画した宿泊単価二万円では計画数値の入込みを達成されることができず、対策に苦慮していた。

 周りの同業者も同じように主要ターゲットをシフトしてきている。

 そして同じように集客が伸びないため宿泊単価を思い切って数千円ダウンさせるという旅館が出てきた。最初は限定商品として様子を見ながらのスタートだったが売れ筋がこの商品にかたまったため結果として宿泊単価のダウンを断行したのである。

 この影響が周辺の旅館へ瞬く間にでてしまい、他の旅館も宿泊単価の設定を大きくシフトダウンしてしまった。

 一昔前の遊興を伴う団体客は宿泊単価が低くても二次消費が見込まれていたので、最終的な消費単価が二万円前後で終始していた。

 ところが個人客は二次消費がほとんど期待できないという特徴をもっており、宿泊単価が比較的高いことが唯一の救いだった。

 しかしながら、その肝心の宿泊単価を下げざるを得なくなったため、結果として収支は大幅な赤字を計上することとなってしまった。

 この旅館では価格をさげても利益が出るように、原価・経費の見直しを急遽行っている。いささか順番が逆になってしまっているが、とにかくこの路線で走る以外に方法はないと考えたのである。

 単純に宿泊料金の値下げだけに頼ると、利益がでない体質になってしまうので非常に危険である。

 今特に重要なことは宿泊単価の変動に伴い原価・経費をいかにコントロールし、利益獲得とキャシュフローが回るしくみを自社でつくりあげるためのシミュレーションが急がれる。それには原価・経費の数値とその内容が明確にわかるように整理できていることが大前提だ。

第279回 事例研修の場で気づいた行動改革

 ある三十代の旅館後継者から話を聞く機会があった。

 バブル崩壊後、この旅館では厳しい経営環境が続いたが明快な解決策を打つことができないまま推移してきた。

 当時は学校に通い大学卒業後地元の企業に就職、数年の時を経て自分の親が経営する旅館に就職した。

 フロント係りを経て営業回りを行うようになり数年が過ぎた。

父親からもそろそろ後継者としての認識を持つようにと言われある日決算書を渡された。

 経営状況は厳しいと何となく認識はしていたが、目の前の決算書をもとに社長が説明した経営内容に驚愕した。

 それからは社長の仕事を補佐する役目に転じ地元や業界の会合にも出席するようになった。

 そのようななか、旅館経営を抜本的に立て直すための役割が自然に自分の役割となってきた。

 ところが思いつきで現場の先輩従業員たちに意見を言ったところで、できない理由ばかりが返ってくる。表向きは後継者ということで、それなりの扱いを受けるのではあるが腹のそこでは「若いボンボンが何を言っている」という感情が伝わってくる。

 自分の立場としては、何とかこの現場を変えていかなければならない。しかし、おぼろげな理想像に向かって何をどのようにすれば、よくなるのか全く見えない状況が続いた。

 知識の習得にと、ビジネス書やインターネットでの情報をむさぼるように収集した。 しかし、原理原則は理解できても現実は教科書どおりにはいかないというジレンマに陥っていた。

 そうしたなか、地元とはかけ離れたところで、同じ悩みを持つ後継者たちが集まって現状の課題をどう克服していくかついて事例研究する場に参加することができた。

 参加人数分の仮設と検証のシミュレーションを体験した後継者は自分の旅館に戻り、指示だけをするのではなく先頭を切って現場で行動をした。

指示される立場の気持ちを理解せ、一方的に指示を連発しても誰もついてこない。このことを事例研修の場で気づいた後継者は「いきなり人を動かすことはできない。自らが動くことで人は意識が変わることがある」ことを実感した。

 「あのボンボンがあそこまでやるんだったら」と思ってもらうまで動くことだ。

第278回 わが旅館を選択してもらうためには

 提供商品の品質は決して悪くはないのに、集客が計画に対して思うようにいかず、苦心している旅館は多い。

 このところ、勢いがある新興勢力の旅館ばかりが目立っているかのようであるが、顧客が旅館を選択・決定する要因はいったい何かということを改めて検証しなければならない。

 業界で認識されていることは、宿泊料金の安さ、年間統一料金、無料あるいは格安での送迎バスの存在、認知されるまで繰り返す新聞広告、ネット系エージェントでの口コミ高評価等があげられる。

 一口に旅館といっても対象となる客層は様々であり、宿泊目的や料金、そして何をもって満足するかということは、それぞれ異なる。

 大事なことは、わが旅館の対象顧客はどのような特性があり、何が宿泊の選択決定要因となるか。また、競合する旅館はどのような対策をとって集客を実践しているかを検証すべきである。

 かつて、エージェントからの集客が多く、個人、団体とも入り混じっていながらも、結果として資金が回っていた旅館が総じてピーク時の半分しか集客できない状況に陥っている。

 その理由はいろいろ分析されているが、計画を達成するだけの集客ができていないということは、現行の方法ではだめだということだけははっきりしている。

 顧客が旅館を選択する要因は実は単純である。これは理屈ではなく感情・感覚の世界だ。だからこそ、対象としている顧客をよく観察、何がわが旅館に足りないのかをはっきりと見極めることである。

 それは提供商品なのか、あるいは顧客の満足感をうまく表現し、告知し、広く認知してもらうことなのかもしれない。

 いずれにしても、リピーターというのは自然に減少していくものである。だから、まだわが旅館を知らない見込み客に対し宿泊予約の行動をとってもらうためのプロセスを、自らつくり上げることが求められている。

 顧客が不満足だという声が多い旅館が淘汰されるのは自然だ。しかしとてもよかったと評価が高い旅館がそのような経過をたどるのは、なんとしてもくい止めなければならない。

第277回 売上計画を達成させるプロセスをつくる

  金融機関から次年度経営計画の提示を求められている旅館の話である。 経営者は財務担当者に対し、すでに作成済みの中期経営計画の数値を基に次年度経営計画作成を指示した。

 財務担当者は得意のエクセルを駆使して、部門別の売上と原価そして経費の詳細を前年の割合を基に一瞬のうちに導き出した。そして季節変動指数をかけて月別の損益計画を作成し経営者へ提出した。

 経営者はこれを金融機関へ、そのまま出しこれで一段落だと予想していた。 ところが金融機関の担当責任者からは、財務的には整合性がとれている。ではこれをどのように実現していくかというプロセスを聞かれ、ことばにつまってしまったのである。

 この旅館は経営計画を作成するものの、あくまでも決算書ベースの損益計画であり、現場でそれを落とし込んでいくことはしていなかった。だから予実績管理会議と称する毎月の検証の場においても、あくまでも計画と実績の差異について、その原因を想定して理由付けすることの繰り返しであった。

 計画値を達成させるためには、売上部門がそれぞれ独立した事業体であるという認識がまず必要だ。したがって売上確保の基となる日ごとの入り込みと顧客特性、つまり個人客やグループ客、団体客のウエイトがどの程度なのかによって、宿泊単価や二次消費の売れ方は必然的に変わってくる。

 例えば、圧倒的に子供連れの個人客が多い日はクラブの売上が低くなる。そこで個人客向けに売店のキッズコーナーを前面に出して購買頻度をアップさせるなど、機動力を駆使した対応が求められる。団体が入っていないときは、クラブを臨時休業にして、そのスタッフを売店やイベントに投入することも臨機応変に行うべきである。

 旅館の品揃えに合わせて客はお金を落としてはくれない。客の特性に合わせて提供商品を変えていくことにより、計画達成のためのプロセスができていく。
 このようなことは当たり前だと言われそうだが、案外できていないところも実は多い。

 売上計画達成のためのプロセスとは、提供商品に対して顧客が喜んでお金を払ってくれる仕組みを作り上げることであり、これが計画数値達成の裏づけとなる。