第360回 旅館経営と地域活性化の両立をめざす

 旅館単体での経営努力に加え、地域の活性化に取り組むことで、集客アップにつなげることは、重要な政策だ。

 ところが温泉地の旅館が廃業したり、チェーン展開をしている旅館に経営母体が変わったりして、地元の旅館組合や観光協会、青年部のメンバーが激減している地域は決して少なくない。

 こうなると、わずか数人で運営しているところは、おのずと仕事量が増えることになる。

 ある旅館の若手社長は人望も厚く、進んで地元温泉地の活性化に取り組んでいる。

 ところが人手不足の為、細かい作業まで自分で行う事になり、自身の旅館にいる時間が限られるようになってきた。

 この点については経営者の家族がフォローするということで、地域のリーダーを引き受けたのである。

 旅館においては、常に日常のオペレーションや提供商品、スタッフの動きを管理するとともに、体外的な折衝を含め、社長の仕事がある。

 この類の業務は、可能な限り社長の代理が行う事で、表面上はクリアしていくことができる。

 しかし、少しずつではあるが、旅館経営のほころびが生じてくる場合がある。

 そしてその進捗度合いがよくわからないため、経営サイドでも問題視しないのである。

 仮に社長が旅館の現場や、金融機関の対応に、なんとなく今までと違った雰囲気を感じたなら要注意だ。

 これは経営者不在による弊害が出てくる予兆である。

 この旅館では、このままではいけないとの認識をもったため、朝礼と毎日の幹部社員とのミーティングには、必ず社長が出るというルールを作った。

 そこでは社長がリーダーとなり、各現場での報告、連絡、そして課題解決の追跡を短時間ではあるが、行う事にしている。

 これにより、日々の要となる意思決定を行うことができる。

 社長が一日中館内にいることが重要なのではない。

 マルチで動かなければならない社長は多い。

 ならば、もっとも有効な社長業務の方法を、与えられた条件の中で工夫することが重要だ。

 そしてその結果を検証し、修正していくことを忘れないようにしたい。

 旅館経営と温泉地の地域活性化は切っても切れない関係にある。

 うまく両立させたいものだ。

第359回 計画達成の為の阻害要因を取り除く

 客室数が百を超えるような大規模旅館になると、組織がうまく廻ることが経営上重要となる。

 あいまいな意思決定やどんぶり勘定が結構多い旅館業界だが、数字をことのほか重視している旅館がある。

 この旅館では事業の結果は数字のみで判断するという社長方針のもと、部門ごとの計画や結果は、あらかじめ決められたフォームに則り作成される。

 そして逐次、PDCAを潤沢にまわすために、チェックを怠らないのだという。

 たしかに他の旅館と比較すると合理的で透明性が高い体質があるのだが、現場では課題が見え隠れしている。

 この時期部門別計画書を作成することに労力をつぎ込み、幹部会議にて部門別発表会が終了すると、その計画書は誰も見なくなるという現象がある。

 トップから現場責任者へは、必達の目標数値が示される。

 これを基に達成すべき数値を細かく策定し、落とし込む。

 そしてこれをどのようにして達成していくかという行動計画にブレークダウンしていく。

 ここでは達成させるためのつじつま合わせの要素が入り込んでくる。

 現場責任者としては、トップからの指示に対して「できません」と言うのはもちろん論外。

 いかにして達成させるかという戦術を構築し、クリアすることが中堅幹部の仕事である。

 これはまさしく正論である。

 だが、このご時勢の中、部門の達成目標は簡単に達成できるようなものではないはず。

 行動を起こすなかで障壁となる内容を関係者と共有し、それをどのようにしてクリアしていくかが、実は重要な要素である。

 この段階に入ると、数字ではなく、人にかかわる問題が必ず出てくる。

 「あの人がいる限り、この課題はクリアされない」とか「ここから先はタブーとなっている」というようなことが出てくる。

 経営者及び幹部はこの段階で目をつぶらないことが大事だ。

 あくまでも基軸が「計画を達成させるためには例外を作らない」というルールを前もって確立することだ。

 それをあらかじめ共通のルールとしておくことにより、PDCAが廻っていく。

 流れが止まる要素は何か、これを認識しクリアしていく工夫が最大のポイントだ。

第358回 現場サイドでの宿泊料金の値下げがもたらすもの

 日常、宿泊料金の折衝は予約と営業のセクションが担っている。

 この現場を見ていると、顧客より先に料金の値下げを切り出し、安価な金額から売ろうとする場面に出くわすことがある。

 提供商品に自信が無いのか、それとも適正料金では競合旅館との関係から成約が難しいからなのか。

 いずれにしてもこれが経営者の判断のもと、行われているのであれば、ひとつの意思決定ということで理解できる。

 しかし、経営者が知らないところで、日常このようなダンピングが行われているとしたら大問題である。

 宿泊料金のダンピングは消費単価の低下へ直結する。

 これは利益が出ない旅館のビジネスモデルの典型だ。

 日帰り宴会の割合が少なく、宿泊客が大部分を占める旅館の場合、決算書における損益計算書の数値を年間宿泊人数で割る。

 これが自館の宿泊客一人当たり収支結果となる。

 つまり、売上高は総消費単価、売上原価は食材・飲料・売店原価額にあたる。

 粗利から人件費・販売費、施設費等の各経費と減価償却費を差し引いた、営業利益は確保できているだろうか?

 さらに借入金の返済をストップしていたとしても金利は支払っているだろうから、営業外支出ははずせない。

 ここで経常利益が出ているかどうかがポイントとなる。

 さらにここから借入金の返済財源と、次年度への繰越金を確保しなければならないことになる。

 そこで必要目標利益額から逆算することにより、宿泊客一人当たりの収支モデルはすぐに算出できる。

 問題はその収支モデルと直近の損益計算書から導き出した収支結果とのギャップである。

 このギャップをどのようにして埋めていくかを、経営者が考えそして実践していかなければならない。

 そのための具体的方策は個別に異なるが、売上高のアップ、そして原価および経費のダウンをミックスさせること以外に方法は無い。

 このことを経営者が認識し、現場へ具体的な指示を出していかなければならない。

 だから、宿泊料金の減額が売上高の減少につながることのないように、経営者として歯止めが必要になる。

 戦略なき単価ダウンは、経営の命取りとなる危険性が大きい。