第428回 コストカットの危険

 よく耳にする、無駄な経費をなくせという声、コストを意識するうえでホテル・旅館に限らずどの企業でも当てはまり、意識し、徹底的に取り組んでいる。

 前々回に書いたが、コスト、いわば原価と固定費を下げるということは企業の収益向上にもつながり経営としては一つの大きな経営手法であることは言うまでもない。

 しかし、このコストの部分は両刃の刃な部分もあり、一歩間違えると自分自身を傷つけてしまうかもしれない危険性を秘めている。

 そこで、今回はコストについて触れていきたい。

 まず、私自身コストを考える際に最も後回しにするものが“人件費”である。

 固定費の大きな部分を占め一見するとこの部分のコストカットが一番インパクトが大きいように思われる。

 しかし、実際に給料を減らしたり、人員を整理したりする場合経営の数字の上で出てくることよりも大きなインパクトがおこる。

 それは、小さなコストカットでも同じである。

 コストカットの要は会社に関わることか、経営陣に関わることか、従業員に関わることかという部分である。

 そのため、コストカットを行う上で、従業員に関わることは後回しにする方がよいと考える。

 例えば、節電を声を大にして提唱し、事務所の冷房を切る、または温度を上げる等の対応をしたとしても、役員室や社長室にはその規定を適用しないといった場合、小さなことかもしれないがそんな小さなことで不満が高まってしまう。

 そのため、『まず隗より始めよ』ではないが、まずは自分自身に係るコストの見直しから手を付けること、そして、それが行われたうえで従業員に関わるコストを見直し、最後の最後に人件費ということが望ましいと思っている。

 なぜなら、そこには見えない“空気”というものがあるからである。

 別の言い方をすれば“モチベーション”などと呼ばれている。

 昔はよく従業員満足度を高めることが顧客満足度につながるという考え方があって。

 私自身は、そこまでとは思わないが、従業員のモチベーション、やる気によって、特に接客業に関してはお客様への対応、そしてその後の評価は大きく変わってきてしまう。

 当然のことながら、数字ではなく、感情のある人間が行うからだと思う。

 コストカットを行う上で質を下げないようにという話はよく耳にする。

 もちろん、その部分ももちろん大切であるが、それ以外の部分、特に表に出ない“モチベーション”という大きなインパクト効果も考え、繰り返しになるが『まず隗より始めよ』、コストカットを考える際は、まず自分の身から、そして、社内環境にも配慮し慎重に。

 絶対に無計画に取り組みやすいことからすぐ行うことは避けるべきである。

第427回 損益分岐点分析

 先週、利益を上げる方法としては4つしかないとお話しさせていただき、先週は見えないコストということで、営業戦略をしっかり立てなければというお話をさせていただいた。

 さて、企業を経営していくうえで、経営を分析し、その中の指標の一つに損益分岐点というものがある。

 これは、コストを変動費と固定費に分けて考えた上で、いくら売上れば収支が一致するかを求めることであり、この損益分岐点売上以上の売上を上げれば、数字の上では利益が出るという点である。

 非常に便利で使いやすいのではあるが、厳密な数字を出すことが難しいのが難点である。

 そのため実際の現場では、売上は損益分岐点売上を上回ったが、赤字だったということがある、それはなぜなのか。

 単純な話、大きく考えて売上は2つの側面から考える必要があるからである。

 では、売上を考える上でとらえる大きな2つの側面とは何か。

 1つは“単価”でありもう1つは“数量”である。

 これが売上という大きなくくりで一つにされているから見えなくなってしまっているケースが多いのである。

 ホテル、旅館で言えば、単価は“平均総消費単価”であり、数量は“宿泊人数”または“宿泊組数”でとらえるのが望ましいのではないだろうか。

 そのため、売上を伸ばそうと考えた際に、目標数字に対しての単価設定を高くして伸ばすのか、宿泊組数を増やして伸ばすのか、2通りの方法がある。

 ここで重要なことは、単価設定を高くした場合、宿泊組数の減少があるかもしれないということをあらかじめ想定し、シミュレーションの上、何人の組数は確保しなければいけないのかという目標人数を再設定すること。

 そして、宿泊組数の増加し目標売上達成を目指す場合は仕入等それに係る経費の変動費部分も変化するということである。

 では売上を伸ばすには単価と数量をどのようにしたらよいのかということだが、これは、各ホテル旅館の特徴・財務状況・環境によって様々であるが、どちらか一方だけでよいというわけではない。

 この2つの側面からのアプローチを同時に行い、どちらの方が取り組みやすいのか、そして、どちらの方が財務に与えるインパクトが大きいのか、それを比べることによって今自社内で取り組まなければいけないこと、単価を上げるには、数量を増やすには、そして、それの結果として目指す目標数字はどこなのかが決まってくる。

 最後に私も含めてではあるが、漠然とした努力はいつか疲弊してしまう。

 そのため、根拠に基づいた目標、ゴールを定め、それに向かって走っていく、そして達成感を味わう。

 この体験こそ、売上を伸ばすためには必要不可欠である。

第426回 コスト削減の基礎

 利益をあげるためにという課題は、どの業種にも共通する営利企業なら目指すべき姿であるが、これがなかなか難しいのが現実であり、なかなかビジネス書やコンサルタントの言うようにいかないのが正直なところである。

 しかし、発想を変えてみると、利益の上げ方は4つパターンしかないのである。

 1、顧客数を増やす。

 2、単価を上げる。

 3、原価(仕入)を下げる。

 4、コストを下げる。

 並べてみると、さも当たり前なことばかりではあるが、この大きな表題を自社に落とし込むことが難しい部分であり、またこの中のどれか一つを行えばよいというわけではなく、4つ同時に行っていく方法が最も望ましいのは言うまでもない。

 大切なことは、この中で、自社の持つ限られたエネルギーを注ぐかということである。

 その場合、自社の中で、利益シミュレーションを行ってみて、インパクトの少ないものほど取り組みやすいという様々な指標がある。

 しかし、一般的には、1番は顧客数が取り組みやすく、最も難しいことはコストだと考えられている。

 さて、これからのシリーズでは、利益を上げるためにはというこの4つのパターンを触れていきたいのだが、始めに難しいコストからふれていくことにする。

 コストは切れるものは切るという単純なものは除き、実は下げることが難しく、徹底的に行ったが故に職場環境が悪くなり、それが業務効率、従業員意識の低下、ひいては顧客満足度を下げるという最悪のケースも珍しくない。

 今回は営業コストということについて考えていきたい。

 営業コストで常に意識しなければいけないことが『費用対効果』ということであり、営業の現場では日夜言われ続けている話である。

 この営業にかけるコストを厳密に考えたときに、まず、旅館の戦略をしっかり把握する必要がある。

 つまりはターゲット層をしっかり決めるということである。

 例えば、自旅館はどちらかと言えば若者向けの旅館を目指していきたいという旅館があった場合、当然料理や客室にはその演出が施されるのだが、営業の現場ではどうであろう。

 若者は旅行雑誌を購入するであろうか、購入するとしたらどのような雑誌なのかをしっかり把握し、同じコストをかけるのであれば雑誌よりもインターネット広告の拡充化や、SNSの利用などに重きを置くべきではないか、といったことである。

 当たり前のことではあるが、これがなかなかできていない旅館が多いのが現状である。

 以前も書いたが、自旅館をしっかり把握し、ターゲットを明確にし、その戦略を基にマーケティングをしっかり行い、そしてコストをかける。

 これもまた、無駄なコストの削減の上級手段かもしれない、いや、私は第一歩であるべきであると考えている。