第321回 ホスピタリティは必要か

 先日、接客サービスをテーマとしたセミナーを開催した。

 講義のなかでゲスト講師は、相手を不快にさせないという「マナー」を徹底することがサービス業の大前提。

 その上に業務としての「サービス」があり、そしてさらに一人一人の客に対するホスピタリティが存在するという話をした。

 当初サービスとホスピタリティの違いを問われ、何と答えてよいか戸惑っていた受講者から、ひとつの意見が出た。

 多くの業界がメインターゲットとしている団塊の世代が元気なのは、せいぜいあと十五年。

 自分たちにとって価値のあるものに対しては、喜んでお金を出す客層だ。

 しかし、今の十代二十代の人は、おもてなしやホスピタリティよりも、自分たちが求める空間や時間が仕組みとしてあれば、それでいいのではないか。

 だからこの人たちに合ったサービス内容をしっかり組み込めばいいのであって、旅館にホスピタリティはいらなくなる時代が来るのでないか、という。

 なるほど、近所の繁盛している和食チェーン店を見ると、料理や飲み物はもちろん、取り皿や子供用のスプーン、おしぼり、水、そして代行車の手配に至るまでタッチパネルで客が自らオーダーするしくみがある。

 店側の人件費削減策であることはもちろんだが、子どもまで面白がってやっている光景を見ると、これがこの客層にとって心地よいサービスなのかと感心してしまう。

 料理や施設では他館との抜きん出た違いは出しづらい。

 旅館は究極のところ、ホスピタリティの質が勝負だと、事あるたびに言ってきたが、これも人によって様々なのが現実だ。

 実際、ホスピタリティとは対極の、廉価でわかりやすいシステムの旅館が一部の客層に指示を得ていることも事実だ。

 これはどちらがいいかとか正解かという類のものではなく、対象顧客の特性や感性、価値観を徹底的に分析し、わが旅館の提供商品をブラッシュアップしてぶつけていく戦略が旅館にとって重要だ。

 それが中途半端で、方向性が客にわかりにくいと、淘汰される原因になることはまちがいない。

 そういう意味では毎日接客はしているものの、顧客を観察し、分析することはまだまだ足りないのではないか。

第320回 地域貢献という役割を担った地方ホテルの例

 このところひとつの企業が単独で事業を継続していくことが困難になることが多い。
 
 そこでいくつかの事業体が連携することにより、新たな商品を作り上げて、新規顧客獲得につなげるという動きが見られる。

 よくある例は、旅館がその周辺の施設やバス・タクシー会社と提携し、セット商品を生み出すという、宿泊と周遊観光の商品化である。

 これは旅行会社のパッケージ商品として古くから存在する形態だが、旅館が中心になって、地域にある今まで観光化されていなかった、一種マニュアックなところを取り入れることにより、全く新しい客層を取り込む動きがでてきた。

 しかしこれも言ってみれば、旅館の商品化におけるバリエーションという発想には違いない。

 これらとはちょっと違った事例を紹介したい。

 当社のクライアントに廃食用油を無料で回収し、これを再利用してバイオディーゼルの燃料にする食品リサイクル事業を展開している会社がある。

 最近、この需要が増え、廃食用油の回収量が足りなくなってきたという。

 そこで知り合いの地方都市ホテルに打診したところ、現状は料金を払って業者に回収を依頼しているという。

 我々の提案に即賛同したそのホテルでは、早速毎日出る廃食用油を専用のタンクに貯え、無料で回収してもらうことになった。

 さらにホテルの従業員の家庭で出る廃食用油についても、ペットボトルに詰め込んでホテルに持ってきてもらうようにした。

 従業員の家庭では、廃食用油を固めて捨てる商品を購入しており、この費用が減るので好評だ。

 さらに今後はホテル周辺の住宅や商店、納入業者、宴会会議利用の地元得意先にも声をかけ、廃食用油の回収量アップにつなげたいとしている。

 これは今までの地方都市ホテルの役割に加え、地域の環境改善とリサイクルに積極的に社旗貢献する企業としての位置づけを、新たに加えることにもつながる。

 商品化のバリエーションを拡大するという発想だけでなく、新たな宿泊業の価値をつくりあげるための連携も、実は身近に結構機会があるものである。

第319回 返済猶予を打診する際に

 大震災で直接の被害は免れたものの、団体客を中心に、相変わらずキャンセルが続いている。

 個人客はゴールデンウイークの連休中には持ち直したものの、連休明けからは動きが鈍い。

 特にウイークデーの空き状況が顕著で、思い切った割引を検討している旅館も多いようだ。
 
 さて、このような状況下で、金融機関に対し、とりあえず半年間の返済猶予を申し込む旅館が相次いでいる。

 金融機関としては、旅館業に限らず、緊急対応を迫られており、案件が多すぎて動きが鈍くなっている傾向がある。

 さて、ある中規模旅館では約定通りの返済を行った場合、数ヵ月後資金ショートが予想されるため、やはり半年間の返済猶予が不可欠であると判断した。
 
 ちょうど決算期を迎え、金融機関には次年度の経営計画を提示したところだったが、急遽リスケの依頼文と修正資金繰り計画表を作成した。

 しかし、この旅館の経営者が考えたことは、返済猶予とはその間の返済をカットしてもらうことではなく、あくまでも先延ばしであり、その分のしわ寄せを今から考えておかなければならないということであった。

 そのためには、個人客を中心とした集客策として、ネット系エージェントと直客のアップを強化するとともに、旅館組織の内部体質を強化していくことが重要だという認識を持った。

 そこで取り組んだのは、損益計算書における費用が特にかさむ科目の重点チェックである。
 
 この旅館の場合は、次の二項目を優先事項とした。

 まずはパート人件費の削減である。客室清掃の体制と作業手順を見直し、質を落とさずにスピードアップを図った。
 
 これにより、目標とする変動人件費削減を毎日チェックしている。

 また、備品消耗品について、頻繁に発生する品目の再見積もりを実施する。

 発注の際には必ず金額を記入し、予算内に抑えること。

 すべての物品について、適正庫数量と発注方法の決まりをつくる事。
 
 これらのことを実行することにより、売上高減少に伴い、必要となるコスト削減に対応する具体策が導き出された。
 
 金融機関から指摘される前に、旅館から積極的に課題解決の方法を提示しよう。