第285回 予約行動に直結するプランをつくる

 夏休み真っ只中、今年は予約の発生が遅く、やきもきした旅館も多かったことだろう。

 宿泊客が集中するこの時期、館内の繁忙とともに、地域のお祭りや花火大会等イベントにも大忙しという話しを聞く。
 しかし、この状況も時が過ぎればいっせいに静かな時期がまた戻ってくる。この閑散時期の集客について今から手を打っておかなければならない。

 食事処をリニューアルしオープンキッチンにしたり、個室の露天風呂を新設したことにより集客アップを図りたいとする旅館がある。

 たしかにこれらは最近の顧客ニーズやスタッフのオペレーションを考慮したことによる効率的かつ訴求力のある設備投資の傾向なのかもしれない。

 ところがハードが充実したら、同等の設備を有する他の旅館が新たな競合旅館として出てくる。したがって、設備投資だけでは集客アップの目標を達成させることが難しいというケースが現実だ。

 ハード以外の企画プランで勝負をかけようとしているところもあるが、それが顧客の立場から旅館を選ぶ強力な要因となっているかどうかを十分に検証する必要がある。

 なかには非常に多くのプランを作り、ホームページに掲載している例があるが、見る側からすると、それぞれの違いがよくわからなかったり、そのプランのセールスポイントが見えなかったりすることがある。

 そうすると、複雑なプランの弊害が現場のオペレーションの混乱を招く結果となる。これで、計画した集客の数値を達成できればまだいいのだが、それも大幅に下回りデメリットだけが現場に取り残されるようなことでは本末転倒である。

 魅力的なプランとは、対象となる客層から強い共感を得る独自の企画内容が存在するかどうかが大きなポイントである。例えば乳児連れの家族を対象としたプランでは、チェックインからチェックアウトまでの流れのなかで、いかにこの客層を対象とした独自の商品やサービスを連続して盛り込むことができるかというものだ。少しばかりの優遇サービスレベルでは予約の行動にはとても結びつかない。プランは予約のスイッチが入るかどうかで価値が決まる。

第284回 顧客のストレスを取り除くという発想

普段、顧客に提供しているサービスの内容について常に検証しメンテナンスを繰り返している中規模旅館の事例を紹介したい。

 この旅館の経営者は、日常業務がマンネリ化することをとてもおそれている。このマンネリ化がスタッフの気の緩みを生み、顧客が離れていく根本原因のひとつになると考えている。

 したがって、毎月一回、「サービスメンテナンスミーティング」を開催し、サービスに関する軌道修正を行っている。

 具体的な方法は、館内アンケートやネット系の口コミサイトの書き込みの総点検からスタートする。また、現場の各責任者からあげられた課題や顧客の要望を含め、ひとつひとつ検証をしていくのである。

 その際、大きな基軸となっているのは「顧客のストレスを取り除く」というキーワードだ。

 例えば、以前この旅館の高額個人客に対しては、チェックイン時に例外なく抹茶を提供していた。このサービスは旅館の格式を高め、顧客にとっても満足してもらうものであると思い込んでいた。抹茶の提供サービスがブームになりかけたときのことである。

 ところが実際には茶道をたしなむ顧客はごく一部。不意に出された抹茶を前に戸惑い、スタッフが見ていないときを見計らって飲み干すケースが多かった。

 現場のスタッフからの指摘を受け、ウエルカムドリンクをチョイスしてもらうようにしたところ、顧客から笑顔が生まれるようになったという。

 旅館が良かれと思って実施しているサービスや、旅館の都合で日常的に繰り返しているオペレーションにはこの手のものが多い。

 いつ客室係が部屋に来るかわからないというストレスに対しても、ご案内時とフトンを敷く時以外は、依頼がない場合を除き伺わないという案内を告知することとした。

 「癒しの空間でリフレッシュ」とうたいながら、じつは正反対のことをし続けていることに気づかない場合が結構ある。

 顧客にとって居心地のいい空間と時間というのは、決して画一的なものではない。人によってあるいは時と場合によって異なるものである。だから臨機応変の対応も含めたサービスをいつも意識しているのである。

第283回 夏休みは旅館ならではの企画で

夏休みシーズンが迫ってきた。旅館ごとに予約の発生状況を確認してみると今年は例年にも増して発生が遅く、やきもきしているところが多い。

 以前は夏休みといえば、何もしなくても予約が早い時期から発生したものだが、それも陰りが見え始めた。そこで子供向けのイベントやプール・バイキング等の商品企画でエージェントも特集を組んでいる。

 しかし、このような企画を組むことができる旅館は一部レジャー対応の設備投資を行っている大型旅館に限られる。大方の旅館は既存の商品を工夫して集客を図るしかないのが現実である。

 夏休みはどこに行きたい?とキーパーソンである子どもたちに聞くと、定番のディズニーランドや最近話題のキッザニア東京という答えが返ってくる。また、ただプールがあるというだけでは満足せず、レジャーランド化したグレードの高い施設を有する特定の施設の名をあげる。

 考えてみれば、公共のプールもかなりハードが充実し、廉価で利用が可能である。このように夏休みを自分たちの都合に合わせてどこで何をして楽しもうかという選択肢はかなり広まった。

 そんな中、旅館は集客するための魅力的な商品を作り上げていかなければならない状況にある。ハードにはおのずと限界がある前提で何を提供するか、工夫して商品を作り上げているところもある。

 ロビーやイベントホールを縁日の設営をして祭囃子で盛り上げる演出。親子で手作りおもちゃを製作するイベント。その土地の昔話を聞いたり、お笑い芸人や手品師のパフォーマンスで楽しんでもらおうとする企画。自然環境を利用したガイド付きの早朝散策やホタル鑑賞等々。

 これらは決して派手なものではないが、普段の日常生活ではなかなか体験することがないものを旅館が提供することによって集客に結び付けようとするものである。

 親子の忘れられないいい思い出になるためには、何があったらいいか?こんな発想で旅館ならではの提供商品を作り上げることが大事なポイントとなる。

 さらに、一泊二日という期間の中で親子の絆を深めるための機会を連続してどれだけ埋め込むことができるかということも、魅力度をアップさせる大きな要因だ。

第282回 宿泊モニターを有効活用する

 ある旅館で館内アンケートやネット系エージェントの口コミサイトで利用客のコメントを追っていた。

  たまにではあるが、猛烈なクレームとともに極端に低い評点しか与えられない場合がある。

しかも総じて全ての評価が低くなる傾向が強い。つまりその客にとって極めて悪い感情が生まれた場合、それ以外のものも全て悪い印象になってしまうのである。

 この旅館では、そのようなクレームに至る前の段階で予兆を発見し、事前に改善を図る動きを社長中心に取り組んでいる。

 その方法は、宿泊のモニタリングである。公募による宿泊モニターを募集し必要チェック事項および主観的な感想も含めた客目線での商品チェックを不定期に実施しているのである。

 アンケートや口コミは絶対量が少ないため、これだけでは判断材料としては物足りない。そこで、モニタリングを活用することで館内の生情報を顧客の立場から提供してもらうことにしているのである。

 モニタリングにおいては客観的事実を報告しそれに対してどのように感じたかを思いのままにのべるパターンである。

 この制度を取り入れる前は、クレームや問題点が浮き彫りになってからはじめて旅館として対応に動き出すという流れだった。しかしそれでは後手に回ると判断したこの経営者は、まず現状の課題抽出にパワーを投入したのである。

 その結果、館内の日常の動きが手に取るようにわかるようになってきた。そして、今まで気づかなかった旅館や従業員の都合第一主義のオペレーションを顧客感情主義のオペレーションに変えていく機軸となったのである。

 スタッフ同士が問題点を指摘しあうと、どうしても現場がぎくしゃくし本当のことを言えない場合が出てくる。

 しかし、しがらみのない第三者のモニターの指摘は非常にドライかつ客観的である。したがって、それが課題であるという認識をスタッフが共有するのに時間がかからない。だからすぐ改善のためのプロセスに移行できるメリットがある。

 モニタリングによって提供商品やオペレーションの向上を図ることは、かなり有効な手段だ。