第340回 課題の抜本的背景に着目する

 経営者はさまざまな意思決定を日々継続して行わなければならない。

 単純で答えが明確なものは、スピートやタイミングが重要だ。

 これらを対処していくためには、部下に権限委譲を行うことができる。

 しかし、経営者自らでないとできない類の意思決定がある。

 これは明確な答えが存在せず、矛盾だらけの要素のなか、どっちにころんでも、すっきりとはいかないやっかいなものである。

 これをあえて矛盾の姿のままで放置せず、その旅館なりの方向性を自ら示していかなければならない、大事な意思決定である。
 
 重要な意思決定を行うには、可能な限り正確な情報や判断材料が不可欠だ。

 経営者が旅館のすべてを見渡せる範囲で運営されていればいいが、そのような条件のところは数少ない。

 旅館は経営者の知らないところで、同時にいろいろなことが起きている。
 
 重大な問題解決や新たな展開を図ろうとする場合、実のところ何が起きているのか、その根本原因や背景は何があるのかを、「これでもか」というくらいしつこく探っていくことが大事だ。

 ここのところが結構あいまいであることが多い。

 だから現場担当者や幹部から挙がってきた判断材料は、完全ではないという仮設のもとで、これを検証する作業やしくみを持っていたい。

 例えば、その現場に出向いてみることや、複数のスタッフからのヒアリングを行う。

 これをもとにその原因・背景を自分なりにたて、再度確認するというプロセスである。

 現場からの報告を鵜呑みにせず、「それはそもそもどういうことか?なぜそうなったのか?」を数回繰り返すことにより、当初の報告の内容が揺らいでくる場合がある。

 この兆候を逃さないことが、後々の意思決定を誤った方向に向かわせない有効な予防策となる。

 旅館を取り巻く外部環境の変化そのものは、旅館経営者がまず素直に受け止めることだ。

 そしてその変化が我が旅館にどのような影響を与え、今後どう対処していくかという大きな命題を経営者は抱えている。

 それとともに、日常発生するさまざまな課題とその問題可決をどのように対処しているか?

 課題・背景の抜本的な検証と意思決定を密度濃く、かつスピード感をもって日々当たること。

 これは経営者の重要な仕事である。

第339回 家族客に支持される旅館づくり 

 明らかに団体客が減った今、いかに個人客やグループ客を取り込み、そして財布の身もが固いなかで総消費単価をあげていくか、日々頭を悩ませている旅館経営者が多い。

 特に家族客の場合、旅行業者のパンフレットを見れば、プールやバイキングの充実度をアピールしている大規模旅館に目が移ってしまう。

 そして家族合計の宿泊費と、交通アクセスを勘案した結果、旅館が選ばれるというパターンがある。

 しかし、旅館全体からすれば、そのような基準を満たしている旅館はごくわずかであり、そうでない旅館がいかにしてこれらの客層を取り込むことができるかが、大きな課題となっている。

 旅館経営者の方々が、これらをテーマとした研修会の席で出る言葉は、「施設では勝負にならず、それに勝る魅力で顧客を引き付けることは困難だ。」

 ここで例えば小さな子供二人を抱えた四人の家族客を想定した場合、子供が楽しむことが出来る施設やイベントがあって時間を過ごせ、大浴場ではしゃいで好きなものを好きなだけ食べることが出来るバイキングがあり、少しぐらい子供が騒いでも、似たような客が多いような、気が楽な旅館がいい。

 しかし、このような施設重視のパターンの旅館しか家族客に受け入れられないわけでは決してない。

 むしろそれ以外の魅力を持った旅館があまりにも少ない、あるいはその取組みが中途半端であるため、顧客にとって、魅力あるものに仕上がっていないのが問題だ。

 前述した四人家族の場合、子供が夢中になるものを自然環境や食事、人的な要素で商品化することと、そのお守り役である親へのサポートをセットで盛り込むことがポイントだ。

 ある海辺の旅館では、ベランダからかもめにえさをやったり、家族で簡単なつりを楽しむことができるため、これら細切れの未体験を集めた旅館ライフを提案している。

 そして汗びっしょりになった子供の浴衣の着替えを優先的に用意している。
 
 要はいかに家族四人が楽しい旅行になるよう、旅館が演出しサポートしてあげることができるかが、その力量が家族客に支持される旅館の差となって現れてくる。

 旅館の魅力はその顧客を思い描いて旅館自らが作り上げるものである。 

第338回 旅館の介助支援をどう考えるか

 我々の地元に、「優しいお店プロジェクト」という活動をしているNPO団体がある。

 内容は高齢者や障害者等介助を必要とする人に対して、お店側が必要な知識と技能を身につけたスタッフを「接客士」と認定している。

 そして充分な介助支援接客を行う事により、これらの人々にとって快適な買い物やサービスを受けてもらうことを目的としている。

 我々もその活動に参画して、研修現場を見続けてきた。

 そこで強く感じることは、それぞれ異なるサービス業の受講者たちが、研修を終えて自分の職場に戻ったとき、本当に現場で活用することができるかどうかである。

 世の中、いろいろな研修制度があるが、その目的もさまざまである。

 なかにはその肩書きが就職に有利だとか、昇進のための条件となっているようなものもある。

 しかし、今回の事例は、現場で活かしきれることにこそ、価値がある。

 この研修を間近に見る時、当然旅館の現場を思い浮かべる。

 旅館には車椅子を用意しているところが多い。

 ところが車椅子に客を乗せて館内を案内することができるスタッフが、果たして何名いるのか。

 館内のすべての施設をこの客が利用する場合のサポート体制ができているのか。

 この質問を旅館に投げかけると、基本的に客の介助者に任せているという回答が戻ってくる。

 つまり、車椅子や手すりはあくまでも利用者の為のハード整備に留まっている。

 でもそれで本当にいいのだろうか。

 このような場合、当人はもちろんだが一番大変なのは介助する立場の人だという。

 なるほど介助者の立場に立てば、旅館でのんびりと言うには程遠いのではないか。

 ならば介助者の負担を少しでも旅館が減らしてあげることはできないだろうか。

 そのためには接客スタッフが介助の基本はもちろん、当人や介助者の気持ちを理解したうえでのオペレーションを身につけることができたら、提供サービスの内容は全く違ってくる。

 そこまでできれば、旅館の利用を「介助が必要だから」と言う理由で控えている多くの人たちを、新たな見込み客として捉えることができる。

 車椅子や手すり・スロープのようなバリアフリー対応があるだけでいいのかどうか、今一度検証してもらいたい。