第399回 金融円滑化法とその後について④

 経営計画作成するとき、陥りがちな失敗・落とし穴がいくつかある。

 一言でいえば、『現実味を帯びていない絵に描いた餅』なのであるが、その点をいくつか紹介していきたい。

 まず第一に、計画・戦略の確認である。

 経営者にしっかりとヒアリングを行った上で経営計画を作成するため、経営者の思いが強く反映され、それにより、会社の目指すべき姿がはっきりしてくる。

 しかし、その思いが、単なる思いつきなのか、その場のひらめきなのかをしっかり見極め、客観的に判断しなければならない。

 そして、第二に『数字』の問題である。

 経営計画の母体となるのは、現状の会社の状況をしっかりと数字で把握することである。

 その数字を基に、売上計画を作成したり、経費の削減・節約計画を作成したりを行う。

 しかしこの計画が、実際の現場と大きくかけ離れてしまっているケースがある。

 その場合、「元々の設定の数字に無理がある」や、「計画自体が理不尽」といったことになり、計画未達成が連続してしまう。

 これでは、せっかく計画を作成しても意味をなさなくなってしまう。

 そのため、数字上の計算ももちろん必要だが、その数字が現実味を帯びているのか、しっかりとした根拠があるのか、を見極め数字が独り歩きしないように注意する必要がある。

 第3に、作成している計画が、業種・業態・環境に適しているのかどうかである。

 ホテル・旅館業界にももちろんのこと、業種や業態、環境によってさまざまなケースが存在している。

 しかし、経営計画を作成する際に、一般的な手法にとらわれ作成してしまう場合がある。

 これでは、現実と大きくかけ離れてしまう。

 例えば、一般的な手法にとらわれ作成してしまったが故に、宿泊客がチェックアウト時に、売店に担当がおらずに、結果として売上が減ってしまったと言った話があった。

 そのため、一般的な手法はベースとしながらも、その業種・業態・環境に適しているのかどうか作成のポイントとなる。

 そして、最後に、作成した計画を共有・活用できないという問題がある。

 経営者の思い、業種に適した数字目標を定めても、実際に現場で行う管理職や従業員と計画を共有できなければ、計画として動き出さないのである。

 そのため、作成する計画は作成段階で、会社の従業員の状況をきちんと把握し、周知、徹底させることが大切となる。

 それにはまず、経営者が従業員の、従業員が経営者の、それぞれの立場や思いをお互いに共有し、歩める社内体制、雰囲気づくりがポイントとなってくる。

 いずれにせよ、円滑化法終了後の来るべき時代の中で、経営の発展・安定のためにはしっかりとした経営計画の作成は必須と考える。

 しかし、くりかえしになるが、その計画が現実味を帯びていない絵に描いた餅にならないよう、注意する必要がある。

第398回 金融円滑化法とその後について③

 金融円滑化邦語の対応として、経営革新等支援機関認定制度があることは前号、前々号で触れた。

 では、具体的には何を行えばいいのだろうか。

 基本的には、通常の経営計画策定の流れを行うこととなる。

 まず、自社の分析から始まる。

 自社の持っている資産や財産をしっかりと把握する。

 そのためのたな卸しを行う。

 具体的には、二つのルートより行う。

 まずは、数字上のしっかりとした現状を把握するため、財務分析をしっかり行う必要がある。

 例えば、償却資産を現状の評価額に計算しなおしたり、簿外資産の計算を行ったりをします。

 それゆえ、自社の数字上での現状を性格に把握します。

 そして、同時に、現状の数字以外の分析も行います。

 例えば、自社の現状持っているブランド力を見出す。

 具体的には、他社と比較しての自社の差別できるポイント、強み弱みを抽出したり、従業員の調査を行い、実際に現状の従業員の持っている能力を洗い出したり、経営者にヒアリングを行い、目指す経営理念や経営者の思いを具体化したりを行う。

 以上のようなことを行うが故、その企業が、どのような戦略をたて、どんなターゲットに向けて、どのようにアピールすればよいのか、また、他企業と比べ、どこで差別化を図りアピールすべきかなどの計画を大筋で立てる。

 そして次に、計画を策定する。

 上記の内容を基に、3年から5年後へ向けての経営計画を策定する。

 具体的には前述した内容を受けて、それを数字に落とし込む作業となる。

 大筋の計画の達成のためには、どのような投資を行うべきか、そしてそれにはいくらの経費が係るのかを算出したり、それがため売上がどのように伸びるのかを作成し将来の事業計画として策定する。

 例えば、3年後に黒字化し、返済をスムーズに行えるようにするためには、どのような計画を立てればいいのかを、専門家によって作成する。

 これが、経営革新等支援機関認定制度の一つの役割といえよう。

 さて、そこで大事なポイントが、その依頼する専門家が、自社の業種に精通しているのかどうかということである。

 数字の上では、いくらでも売上○%アップなど言える。

 しかし、実際に考えてみた際に、その業種にあった計画を立てられるかどうかが問題である。

 なので、依頼する際は、当然有償となるので、しっかりとした計画を作るために、その業種に精通しているかどうかを見極める必要がある。

第397回 金融円滑化法とその後について②

 前号で触れた、経営革新等支援機関認定制度について、もう一度その仕組みと背景を述べていきたい。

 昨年末の衆議院議員選挙において、日本国の政権与党が民主党を中心とする連立内閣から自民党を中心とする連立内閣に変わった。

 そして、それに伴い、各省大臣も交代するなか、金融担当大臣に就任した麻生太郎氏は、就任の会見においてはっきりと金融円滑化法の再々延長は無いと明言した。

 ただ、その中で、企業によって状況は異なるため、銀行には個別に十分対応するように指示するのが金融庁だと述べ、急激な変化をしないようにと暗に促す発言をしている。

 このことより、法律はなくなるが、実質は何も変わらないで欲しいという、なんとも玉虫色の内容になっている。

 そのわけは、金融円滑化法により、条件変更を受けている企業は公式発表において全体の1割弱、30万から40万社であり、そのうち、円滑化法終了後に返済が再開すると、倒産してしまう可能性がある企業は6万社近くに上るといわれている。

 この状況を救済する政策が、いまだ行政として見いだせていないのが玉虫色の実情ではないだろうか。

 特に、観光業界では円滑化法の支援を受けているホテル・旅館は非常に多いため、この先の方針によって大きく変化してしまういわば死活問題なのである。

 もちろん政府の救済策もある。

 企業再生機構や、各都道府県にある中小企業再生支援協議会の制度がそれにあたるのではないだろうか。

 これは、政府認定の中立な第三者機関であり、この機関が債権者と債務者の間に入ることにより、話し合いで私的整理や経営改善を行って行こうという計画で、2012年には3,000件の実績を目標としてスタートした。

 中には、DDSなどのスキームを使い、現在再生に乗り出している企業もあるが、実情、昨年度4月から11月においてわずか191件のみである。

 この実情の一番の原因は人手不足にあるという。

 では、実際の現場として、どのように対処したらよいのだろうか。

 前述の中小企業再生支援協議会が行っていることは、非常に有意義なことではあるが、人手不足がためスピードが伴わない。

 そのため、民間の知識や実績がある専門家を、政府の認定機関とし、再生事業計画の作成を行い、円滑化法終了後に備えるということである。

 この認定機関は、昨年末において全国に3,813機関が認定を受けている。

 現状において、円滑化法終了後のことに苦慮しているのであれば、まず、再生支援協議会やこの経営革新等支援機関に認定されている専門家に相談することが一番ではないか。

 次号では、具体的な手法について触れていきたい。

第396回 金融円滑化法とその後について①

 2013年がスタートした。

 思えば、昨年、2012年は暗い話がやはり多かったように思われる。

 ここ5年間で旅館の件数は8000件以上減少し、毎年1500件から2000件近く減ってきてしまっている。

 中には、打開策を模索する中、今までのノウハウを生かし高齢者施設に変貌を遂げる旅館まで出てきている。

 様々な意見はあるであろうが、筆者は残念に思う。

 貴重な日本文化の集合体である、日本旅館をこのままにしてはいけない。

 そして、2013年、政権が変わり、様々なことの変化が予想される中、まず訪れる大きなうねりが、今年3月に期限を迎える中小企業金融円滑化法への対応である。

 本来であれば、金融円滑化法施行中に経営を安定化させ、体力をつけるのが狙いであったが、長引く不景気によって、経営状態については言わずもがなな状態である。

 では、この円滑化法終了に伴いどのような事態が想定されるのであろうか。

 具体的に探っていきたい。

 昨年11月に前政権の金融担当大臣による談話が発表されている。

 詳しくはホームページをご覧頂きたいが、以下はホームページ掲載の原文そのままである。

 『円滑化法の期限到来後も、貸し渋り・貸し剥がしの発生や倒産の増加といった事態が生じないよう、引き続き、日常の検査・監督を通じて金融機関に対し、他業態も含め関係金融機関と十分連携を図りながら、貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めるよう促してまいります。』

 この内容から見るに、引き続きの積極的な支援を行っていくことは伺える。
 
 そして、そのための具体的な施策として、昨年8月に施行された『中小企業経営力強化支援法』に伴う、経営革新等支援機関認定制度(以下、認定機関)が活用されることを期待している。

 この法案は、民間の金融機関や税理士、弁護士の中から、経験等によって認定を受けた機関が、経営分析や事業計画策定を行い、それにより経営を安定化させることが狙いである。

 筆者はこの認定機関制度、そして、その認定機関の支援により作成された、経営分析や事業計画案を作成することにより、上記の金融円滑化法に対応する方策を打ち出せるのではないかと考える。

 金融機関の円滑化法終了後の対応として、何かしらの指標が無ければ、今後の支援を継続できないのではないか。

 そして、その指標として、今回の認定機関の定める事業計画が有効的なのではないかと考える。

 当社は、グループとしてこの認定機関に認定された。

 そこで、この支援制度の具体的な見通しについて次号以降検証していきたいと考えている。

 新春において、皆様の益々の繁栄を心よりご祈念申し上げます。IKGグループ一同

第395回 青森県の取組み④

 今回の青森県の2年間の取組みによって、どのような成果があるのか。

 一番は旅館側の意識の改善にあると考えられる。

 今までは、青森県という土地柄、ターゲットとして考えられていたのが、北海道や宮城のお客、それと地元もお客が中心であった。

 しかし、東北新幹線の新青森駅までの開通によって、関東の人からも身近な存在になったのだが、それに伴い当然観光地としての整備が必要になる。

 というのも、東北新幹線の終点構想は青森県がゴールではないからである。

 ご存じの方もいると思うが、東北新幹線は数年後には津軽海峡を越え北海道まで開通する計画がある。

 その時、青森県はいかに存在感を示せるか、そのために今何をすべきなのか、それを宿泊施設や観光地を始め、県民全体に浸透させ、何かを始めなければならないのである。

 それにたいする取り組みとして、青森県として今回の事業の果たした役割は非常に大きいと言える。

 そして、そのための整備として、コンサルティングを活かし、様々に対応していくこと、繰り返しになるが各宿泊施設は、例えばバックヤードの整備を行い、従業員動線の整備を行った。

 それにより、接客係の効率化が図られ、より一層のサービスの向上に努められる。

 また、アンケートにより、予想以上にホームページの閲覧者が多いということ、関東地方からの宿泊客が多いということが分かり、そのことよりホームページの整備が営業につながることを鑑み、ネット環境の整備を行った。

 さらには、財務分析により、自施設において何が問題かが明らかになり、仕入原価の再検討を行った。

 など、大きくレベルアップをしている。

 そして本来、その“気づき”は民間で行うものを、行政主導で行っている。

 それが、未来の青森県のためなのだと行政指導で行うということが画期的なのだ。

 地域の取組みとして、今年度の青森県での取組みに関して全4回にわたり紹介させていただいた。

 私は、このような取組みが日本中に広がっていき、地域全体で観光を作りあげ、盛り上げていく体制が取れることを願っている。

 執筆にあたり、協力いただいた、青森県国際戦略局観光企画課の皆様、各旅館の皆様に感謝申し上げ、2013年が今年以上に観光業界を始め、日本全体がいい年になることを願っている。