第324回 スピード感を持って課題を解決する

 ある旅館から節電対策の取り組みについて話を聞いた。

 削減目標の電気使用量に持っていくには、省エネ対応の設備への切替が必要だが、要はデマンド対策と細かい節電の積み重ねだという。

 これを実現させるために、現場の実情を正確に把握し、こまめに対策を実施し、それを記録に取る繰り返しだ。

 これは節電に限らず、すべての業務改善オペレーションにもいえることだ。

 顧客から見た存在価値の高い旅館、コストパフォーマンスの高い旅館を目指すためには、一発逆転の特効薬などありはしない。

 毎日現場で繰り返されている旅館のオペレーションが、今のままでいいのかという疑問を常に持ち、ひとつひとつ課題を見つけて改善していくことを毎日続けることである。

 ところが経営者は往々にして、自分の旅館のオペレーションに馴れてしまっているため、よほどのアクシデントがない限り、細かい作業の評価を見逃している。

 また、社長業として対外的な業務があり、外に出る機会が多くなると、館内をチェックすることも少なくなってしまう。

 経営者に代わって、日常の業務をしっかりとコントロールできる支配人がいれば助かるが、その役割を充分果たしている人は少ないのではないか。

 たまに訪問する旅館では、課題解決のコンサルティングはもちろんだが、滞在中における提供サービスや、業務オペレーションの疑問がたくさん出てくるので、これを経営者に投げかける場面を作るようにしている。

 このことに対して、全く耳を貸さない経営者もごくまれにいるが、大部分はその指摘を素直に聞き入れてくれる。

 そして肝心なのは、その課題をどれくらいのスピードで解決していくかなのである。

 課題解決を遅らせる理由をつけて、いっこうに進まないケースがある。

 そうすると、また翌日には新たな課題が生まれてくる。

 それもさらに先送りとなり、課題が山積みになって結局は何もせずにうやむやなままという悪循環に陥ってしまう。

 スピード感をもって課題を解決し続けるには大変なパワーがいる。

 これが経営者の必須条件であり、存在価値の高い旅館、コストパフォーマンスの高い旅館になる背景である。

第323回 旅館の存在価値を自らつくりあげる

 大震災後、どのように旅館を経営していけばいいのかという議論が、さまざまな場面で行われている。

 特に共通しているのが、借入金の返済猶予、売上減少を考慮したキャッシュの確保、そしてこの夏の節電対策等である。

 現場では、これら当面の課題をクリアしていくことはもちろんだが、この先、果たして明るい見通しはあるのかといった大きな不安が付きまとっている。

 震災以前から極めて厳しい経営環境にあった旅館が、さらに大きな打撃を受け、経営破たんしていくところが増えていることも、拍車をかけている。

 このようななか、旅館を取り巻く大変厳しい経営環境を事実としてしっかり受け止めたうえで、自ら行動していくべき事柄について、優先順位を付けて整理することが大事だ。

 経営環境が厳しいということは、顧客から選択される条件が、今まで以上に厳しくなるということである。

 だから顧客に選択されるための商品力や販促体制が、今までどおりのやり方ではだめだということだ。

 それぞれの旅館が顧客にとっての存在価値を再度見つめなおすこと。

 そして経営者が目指す理想と現実とのギャップをはっきりと認識し、それをスタッフにも告知すること。

 そして実現に向けての具体的な行動内容と、スケジュールを打ち出すことである。

 これが経営者自身まだ整理できていない、あるいはその発想そのものがないところは、経営者と従業員がとまどいながら日常業務をこなしていくこととなる。

 このような状態では、顧客に対して質の高い商品を提供することなど、まずもって無理である。

 その結果、ますます集客数が落ち込み、経営状況が悪化していくこととなる。

 今一番大事なことは、自分の旅館の存在価値を、顧客の立場になりきって捉え、自ら創造することである。

 これができなければ、いくら当面の対策を講じたところで、わずかばかりの延命策にしかすぎない。

 今まで経験したこのない経営環境のなかにあって、今ほど経営者の資質や能力を問われる時代はない。

 その結果が如実に反映されるのが、まさにこれからだ。

 厳しい時代だと頭を抱えて悩んでいても、何の解決にもならない。

第322回 再度ホスピタリティについて

 先週に引き続き、ホスピタリティについて述べたい。

 画一料金の旅館や廉価でシステマチックな居酒屋がなぜ受けているのか?

 これは家族4人で利用したときの総予算、素材はともかくどの世代にも対応したメニュー構成、多少子ども騒いでも、気にならない雰囲気と環境。
 
 そして魅力的な送迎サービスというラインナップ。

 これはターゲットが欲していることを提供し、そのことに対して共感する客が支持しているからである。

 これらの旅館には、それぞれの顧客に合わせた臨機応変のホスピタリティはない。

 むしろ、はじめからルールが明確になっていて、その内容を良しとした人のみに来ていただきたいという、価値がわかりやすい仕組みがある。

 この仕組みは、その客層のライフスタイルや価値観を徹底的に調べ、多くの満足を得るだろうというマーケティングがベースになって、サービスの仕組みを作り上げている。

 一方で日本の文化としてのおもてなしの心を最大の商品とする伝統旅館も存在し、高級ホテルの手本となっている。

 多様化し、常に変化する価値観はまさに人それぞれだ。

 意見や考え方もそれぞれ違う。むしろいつも皆同じというほうが不自然だ。

 しかし、旅館は客に対し、それぞれの形でホスピタリティを提供し、それに対してどう感じるかが評価となって現れる。

 再度検証しなければならないことは、多くの人が不快に感じることを、当たり前のように提供し続けていることはないか?

 旅館が提供している商品(施設・料理・サービス)が、対象顧客のホスピタリティの表れとして作り上げられたものであるかどうか?

 そして、さらに一人一人の顧客に対して心から心に伝わるホスピタリティを旅館が持っているかが大事だ。

 客を喜ばすためのパフォーマンスだけに走ったり、廉価だけが売り物の旅館には、一部かげりが見え始めているという。

 それは、いかに料金が手ごろであっても、心に残らない、つまりホスピタリティの精神が全くない旅館は、決して長続きはしないのである。

 わが旅館では、ホスピタリティがどのように存在しているか、今一度検証してみてはいかが。