第339回 家族客に支持される旅館づくり 

 明らかに団体客が減った今、いかに個人客やグループ客を取り込み、そして財布の身もが固いなかで総消費単価をあげていくか、日々頭を悩ませている旅館経営者が多い。

 特に家族客の場合、旅行業者のパンフレットを見れば、プールやバイキングの充実度をアピールしている大規模旅館に目が移ってしまう。

 そして家族合計の宿泊費と、交通アクセスを勘案した結果、旅館が選ばれるというパターンがある。

 しかし、旅館全体からすれば、そのような基準を満たしている旅館はごくわずかであり、そうでない旅館がいかにしてこれらの客層を取り込むことができるかが、大きな課題となっている。

 旅館経営者の方々が、これらをテーマとした研修会の席で出る言葉は、「施設では勝負にならず、それに勝る魅力で顧客を引き付けることは困難だ。」

 ここで例えば小さな子供二人を抱えた四人の家族客を想定した場合、子供が楽しむことが出来る施設やイベントがあって時間を過ごせ、大浴場ではしゃいで好きなものを好きなだけ食べることが出来るバイキングがあり、少しぐらい子供が騒いでも、似たような客が多いような、気が楽な旅館がいい。

 しかし、このような施設重視のパターンの旅館しか家族客に受け入れられないわけでは決してない。

 むしろそれ以外の魅力を持った旅館があまりにも少ない、あるいはその取組みが中途半端であるため、顧客にとって、魅力あるものに仕上がっていないのが問題だ。

 前述した四人家族の場合、子供が夢中になるものを自然環境や食事、人的な要素で商品化することと、そのお守り役である親へのサポートをセットで盛り込むことがポイントだ。

 ある海辺の旅館では、ベランダからかもめにえさをやったり、家族で簡単なつりを楽しむことができるため、これら細切れの未体験を集めた旅館ライフを提案している。

 そして汗びっしょりになった子供の浴衣の着替えを優先的に用意している。
 
 要はいかに家族四人が楽しい旅行になるよう、旅館が演出しサポートしてあげることができるかが、その力量が家族客に支持される旅館の差となって現れてくる。

 旅館の魅力はその顧客を思い描いて旅館自らが作り上げるものである。