第319回 返済猶予を打診する際に

 大震災で直接の被害は免れたものの、団体客を中心に、相変わらずキャンセルが続いている。

 個人客はゴールデンウイークの連休中には持ち直したものの、連休明けからは動きが鈍い。

 特にウイークデーの空き状況が顕著で、思い切った割引を検討している旅館も多いようだ。
 
 さて、このような状況下で、金融機関に対し、とりあえず半年間の返済猶予を申し込む旅館が相次いでいる。

 金融機関としては、旅館業に限らず、緊急対応を迫られており、案件が多すぎて動きが鈍くなっている傾向がある。

 さて、ある中規模旅館では約定通りの返済を行った場合、数ヵ月後資金ショートが予想されるため、やはり半年間の返済猶予が不可欠であると判断した。
 
 ちょうど決算期を迎え、金融機関には次年度の経営計画を提示したところだったが、急遽リスケの依頼文と修正資金繰り計画表を作成した。

 しかし、この旅館の経営者が考えたことは、返済猶予とはその間の返済をカットしてもらうことではなく、あくまでも先延ばしであり、その分のしわ寄せを今から考えておかなければならないということであった。

 そのためには、個人客を中心とした集客策として、ネット系エージェントと直客のアップを強化するとともに、旅館組織の内部体質を強化していくことが重要だという認識を持った。

 そこで取り組んだのは、損益計算書における費用が特にかさむ科目の重点チェックである。
 
 この旅館の場合は、次の二項目を優先事項とした。

 まずはパート人件費の削減である。客室清掃の体制と作業手順を見直し、質を落とさずにスピードアップを図った。
 
 これにより、目標とする変動人件費削減を毎日チェックしている。

 また、備品消耗品について、頻繁に発生する品目の再見積もりを実施する。

 発注の際には必ず金額を記入し、予算内に抑えること。

 すべての物品について、適正庫数量と発注方法の決まりをつくる事。
 
 これらのことを実行することにより、売上高減少に伴い、必要となるコスト削減に対応する具体策が導き出された。
 
 金融機関から指摘される前に、旅館から積極的に課題解決の方法を提示しよう。