第442回 経営者に最も必要なことは⑦

 「ゆでガエル理論」というものがある。

 『2匹のカエルを用意し、一方は熱湯に入れ、もう一方は緩やかに昇温する冷水に入れる。すると、前者は直ちに飛び跳ね脱出・生存するのに対し、後者は水温の上昇を知覚できずに死亡する』、少しずつ変化する環境に、徐々に適応しつつ、いつしかその環境に浸り、変化の本質を見ることができなくなったカエル。

 あっという間に変化のパワーについていけず、何も対応できないまま滅亡の道を歩む。

 心理学者や経済学者、経営コンサルタントなどが、著作で「ゆでガエル」の話を比喩として使用することがある。

 ビジネス環境の変化に対応する事の重要性、困難性を指摘するために用いられる警句のひとつだろう。

 が、このたとえ話、自然科学上の実験結果であるかのように語られているが、実際には、カエルは温度が上がるほど激しく逃げようとするため疑似科学的な作り話が広まったものである。

 どうも全くの作り話のようである。

 しかし、私たちはこのゆで上がったカエルを笑うことはできないはずである。

 およそ人間は環境適応能力を持つがゆえに、暫時的な変化は万一それが致命的なものであっても、受け入れてしまう傾向が見られる。

 例えば業績悪化が危機的レベルに迫りつつあるにもかかわらず、低すぎる営業目標達成を祝す経営幹部や、敗色濃厚にもかかわらず、なお好戦的な軍上層部など、身近にその例を見ることは多い。

 ビジネス社会に生きる私たちも、慣れた環境に浸りすぎて変化に気づかず、変化だと察知できた時点では遅すぎて手が打てなくなってしまうことが、良くある事かも知れない。

 変化を見抜く力、その変化への対応を実践する力、経営者にとって必要条件の資質の一つと言って良い。

 でも、少し冷静に考えると、最近はIT化が進展し、情報は世の中に溢れている。

 変化をしている…ということは、昔に比べて容易に分るようになってきた。

 情報はその気になれば、いつでも簡単に収集することが可能な時代となった。

 経営者自身の教養、学歴等も昔に比べ比較にならないほど高度化している。

 つまり「分っているけど、行動できない」状態の、頭でっかちの経営者がはびこっている。

 だからこの「ゆでガエル理論」は、環境変化への対応の不備から、さらに一歩先の警鐘を鳴らしていると理解すべきと考える。

 つまり、今どきの経営者に絶対必要なことは、
 いかに変化を見極めるか!というテーマではなく、いかに行動し、実践するか、ということに他ならない。

 行動、実践こそ経営者の最大の使命である。