第422回 番外編 旅館料理への苦言

 日本は豊かになり、物流が発達しどこにいても新鮮なものが手に入るようになってきた。

 その影響か、山の中の温泉地の旅館料理も昔ながらの鮮魚のお造りはもちろん、アワビやカニといった高級食材でさえ味わうことができる。

 それは嬉しいこととも思えるが、私はここに落とし穴があるように思われる。

 この夏の国内レジャーはここ数年の中で比較的好調と言え、全体的には良い話をたくさん聞くことがある。

 そして、夏の主力ターゲットである家族層に対して、上記のような特別高級な食材を提供する食事メニューが概ね受けていることも実際である。

 しかし、それが日本の伝統的な食事と、文化と、旅館ということができるのであろうか。

 今回はあえて苦言と主観そして対策を述べていきたい。

 レジャーの中で旅館への宿泊を選ぶ消費者心理の中には、旅館に対する様々な期待が存在しているのは言うまでもなく、その中でも施設や料理といったものは大きなウェイトを占めている。

 そして、多くの旅館は和食の伝統である割烹スタイルを取っているところが多いのが現状である。

 しかし、大事なことを見逃していると思われるものが多い。

 それは食事のストーリー性であると私は考えている。

 確かに物流の進歩や宿泊客の趣向の変化により、食事の形態も様々な形で変化するのは当然のことである。

 しかし、言い換えれば、どこに行っても同じような料理内容になってしまいがちであるということである。

 確かに物流が進歩したとはいえ、海の物は海のそばで食べた方がおいしいに決まっている。

 にもかかわらず、山の中に来てわざわざ海の物を料理に出すのでは、土地ならではの『風土』が失われている。

 また、季節感という点でも同様である。

 多くの旅館が食事に占める仕入の問題、いわゆる原価率の問題に苦慮していると思われる。

 大前提として当たり前の話になるが、いいものを安く仕入れ提供するということが一番なのである。

 そして、『良いものを安く』というのは、旬の物という形で和食では表現されている。

 作物や魚には、一番おいしく食べられる時期、収穫できる時期というのが決まっており、その時期のものが一番おいしく、市場に多く出回るため価格も安価なのである。

 当たり前のことのようだが、進歩した日本の現在では価格は違えど一年を通じて手に入るものが多いため見失われがちである。

 不易流行という言葉がある。

 流行があるが、それとは別に変らずにいなければいけないものがあり、それを守ってこそ貫いてこその文化であり、長く反映するためのポイントなのである。

 もう一度、自分の旅館の料理を見直し、本当にこれが正解か考えてほしい。

 流行は必ず次の流行によって変化する。

 それは、いつの世も繰り返しなのだからと私は思う。