第274回 個人客の奪い合いの中で

 団体客の大幅な減少とともに、既存エージェントからの送客も減少傾向が顕著になり、ネット系から入ってくる個人客の奪い合いが顕在化している。

 パソコンの画面上で旅館商品の比較対照が容易になった今、いかにわが旅館の優位差別化が顧客に伝わるかがポイントになる。しかし、実際はその差がほとんどわからないので、結果として価格の勝負に陥ってしまっている。

 実際、旅館からすれば、例えば先月まで二万円の宿泊単価をくずさなかったライバル旅館が、ある日突然キャンペーンと称して数千円の割引を打って出てきたら、あせってしまう。そして入り込み数が伸び悩んでくると、わが旅館もこの料金に横並びにしてしまう。

 ところが宿泊単価のダウンに伴って、食材費や一般経費のコストダウンを図っているかというと、この部分には手付かずというパターンが見受けられる。

 顧客からすれば、コストパフォーマンスが良くなるわけだから、口コミ評価はアップするけれども、経営状況はさらに悪化するという状況になってしまう。

 その月の入り込み計画に比較して、実績が伴わなくなってきた時は、責任者の判断で一気に宿泊料金の変更が行われることが多い。そこで変更した料金でも、利益が出るしくみを構築することが、その旅館の生き残りにかけての必須条件である。

 固定費のコストダウンはいうまでもないが、宿泊料金のダウンに伴う食材の工夫によるコストダウンをおこない、必要粗利益額を確保することは経営者の重要な仕事である。

 今後もこの傾向は続くものと考えたほうがいい。だとしたら、予想される宿泊価格の変動幅によって、あらかじめ料理内容の変化について、厨房も事前準備をしておくべきである。

 特に、個人客は飲み物もほとんど注文せず二次消費も期待できない。したがって、この行動内容における旅館の評価基準は快適で飽きのこない客室空間と、食事の充実度のウエイトが高い。団体客のように料金の差によって高級食材が一品つくというような単純な発想は捨てるべきであり、食事や客室の空間で顧客を魅了し、リピートに結びつくまで商品の質を与えられたコストの中でいかに表現できるかにかかっている。