第379回 今だから考える『おもてなし』とは

 有名な話だが、ほんの数年前、日本でも名の通ったなホテルで大変残念な事故があった。

 宿泊客の高齢の男性が、夕食中にステーキをのどに詰まらせそのまま亡くなってしまった。

 実はこのホテル、皮肉なことに全館バリアフリーになっており、館内には多く手すりを設置、AEDもいち早くそろえるなど、福祉の分野に積極的に取り組んでいたのだが、いざ事故が起こった時、救急車到着までの7分間、誰も何もできなかった。

 結局、みんなおどおど周りでしていただけなのだ。

 これは、なんとも残念な事故であった。

 この事故に見えるように、福祉を考えた場合、ハード面からの設備投資は当然必要なことではあるが、お金も時間もかかってしまう。

 ましてや、ホテル・旅館業の中には構造的にバリアフリーへの改築が難しい施設などもある。

 ではソフト面はどうであろうか、前述の事故の際、従業員の誰かがのどに詰まらせた場合の対処法を知っていれば不幸な事故にはならなかったのかもしれない。

 大切なのは、看護士までとは当然いかなくても、何かあった際の対処法を従業員が身につけているというと、それを実践できるということではないだろうか。

 こちらのソフト面での対応はハード面に比べ費用も時間も少なくて対応できる。

 簡単に言いかえれば、車いすの宿泊客の方が来た際、段差があるホテルでも従業員が車いすの対処方法を心得ており、宿泊客が何不自由なく過ごせる、それでいいのである。

 実はこのソフト面での福祉への取組はサービス業界ではさまざまにあり、民間資格もある。

 タクシー業界や百貨店業界などは積極的に取り組んでおり、各言う当社にも『接客士』という民間資格を作り接客のプロの認定事業を行っている。

 しかし、もっとも大切なことは、そこに携わる気持ちなのではないだろうか。

 バリアフリーにする、従業員が知識を身につける。

 当然必要なことだが、そこに携わる人間が、何のためにするのかが分からなければ意味がなくなってしまう。

 私はこの部分、携わる人の意識、気持ちといった部分が接客、特に『おもてなし』と言われる部分で根幹となる部分であると考えている。

 そこで、今回より具体的な事例を挙げながら、接客、『おもてなし』といったものについて書いていく。