第345回 地元客にとって心地いい旅館を目指して

 東北地方の旅館を訪問した。

 この時期は農閑期であるため、地元農家が宿泊や日帰りの主要客を占めていた。

 これから冬を迎え、総じて宿泊入込が減少傾向にある温泉地が多い。

 特に目立ったイベントが無い場合、厳しい気候もあいまって、企画ものや個人旅行ともども積極的に足が向かない地域が存在する。

 この場合、地元客を無視しての冬季旅館経営はあり得ない。

 ある中規模旅館では、二泊三日のミニ湯治プランや、日帰り宴会、温泉入浴と食事でこの時期を乗り切るのだという。

 この地元客の動向を見ると、一年に何度も旅館を利用する大事なリピート客が多いようだ。

 地元に旅館が根ざしている証拠であり、さらにこの客層を取り込んで行きたいとしている。

 そのためにはこれまで特に個別の営業活動を行っていなかった、個人・グループ客を中心に、法事や祝い事等の記念日の活用を積極的に獲得していきたいところだ。

 厨房や接客係りは、宿泊・日帰り宴会、個人・グループ客のコマ対応、温泉入浴客対応とさまざまな客に対する対応を同時に実施していかなければならない。

 現場の支配人は「正直言って業務をこなすことで精一杯だ」と本音を語っていた。

 しかし、この旅館は数ある競合店に対して大きく水をあけている。

 その理由は、修繕費を計画的に計上し、最低限客に不快な思いをさせる箇所がないことを目指してきた。

 さらに、現場スタッフが気さくに客に対して声がけをしている場面が多く、リピート客とのコミュニケーションがうまく取れているためだ。

 いくら料理・サービス・施設が優れていても、スタッフと客の間に大きな溝があってはだめだ。

 とりわけ地元客あっての旅館であればなおさらである。

 積雪が増すこれからの時期、旅館のスタッフは客の車の雪下ろしをこまめに行っている。

 大変労力を必要とするが,この作業をどの旅館よりも徹底することを心がけている。

 だから、旅館をチェックアウトする際には、ほとんどの客からありがとうの言葉が出るという。

 地元客を重視するということは、「この旅館は心地いい」と思ってもらうには何をすべきかを、年中考えて実践していくことだ。