第342回 経営効率化と顧客満足の両立

 経営効率化と顧客満足の両方を同時に強化しなければならない、という課題を抱えている旅館が多い。

 典型的な例は、債権者である金融機関が旅館の経営状況に逐一口を挟む環境にある旅館だ。

 基本的に返済猶予中の場合は、試算表の提示を毎月求められ、計画との差異がある勘定科目については、その理由を細かく聞かれる。

 また、軌道修正をどのように実施していくかを早急に回答するよう求められる。

 特に金額が多い人件費については、変動費と捉えよというスタンスのところが多い。

 つまり、計画した売上高に達しない場合は、その分人件費を減少させよという論理である。

 旅館の現場では、すでにリストラの実施や、退職者の補充をせずに、何とか現場でまわしているところに、さらにもっと減らせという指示がくる。

 そうなると客に対するサービスの低下という形に表れる。

 ある旅館で「この旅館は以前よりも質が低下した」と客が現場のスタッフにクレームを出したところ、「人が少なくてやっとこなしている状況です」という言葉が返ってきた。

 ある意味非常に正直な回答であるが、内部事情を口実にするほど疲弊していることを、ネットエージェントの口コミに投稿されたのである。

 経営者はさぞびっくりしたことだろう。

 多くの旅館はこのような現実に対して、客に不満を与えないようにはどうしたらいいかを、工夫と努力で乗り切ろうとしている。

 しかし、現場からは、状況は理解できるが、いたいいつまでがまんすれば、この体制から脱却できるのかという不安の声が上がる。

 それに対して明確な回答ができない経営者に対しては、やがてその旅館を去っていくスタッフがまた1人2人と現れることになる。

 これら負のスパイラルを断ち切るためには、この難問に対して断じて逃げてはいけない。

 常に現場に目を向け、先頭に立って取り組んだ経営者だけが現状を打破する可能性がある。

 現実に目を背け、あきらめてしまったところは、例外なく自主再建はできなくなっている。

 金融機関は結果だけを重視する。

 求められた結果を導き出す方法を決めて実行するのは、あくまでも経営者である。