第341回 宿泊単価をどう捉えるか

 決算期を終え、次年度の経営計画を銀行に提出したある旅館では、それをどのように実現していくかというテーマで幹部会議を開いていた。

 この旅館は銀行からの金融支援(リスケ)を受けており、売上が伸びる要素がなかなか見つからないため、相当の経費削減を要求されている。

 しかしその金額は返済財源を確保するために逆算されたものであり、旅館からすれば現実的な数字とは到底思えないものであった。

 これまで原価や経費のコストダウンを続けている中、さらに大幅な人件費削減を要求されたのである。

 つまり次年度経営計画の実態は、こういった銀行の意向をそのまま反映したものに他ならない。

 銀行の言い分は、その立場に立てば分からないわけではない。

 しかしその計画が実現できなければ、経営者の交代もありうるという言葉を、素直に聞き入れるわけにはいかない。

 いまこそ自分たちがふんばらなければならない時だという、強い経営者の思いがあった。

 そこでこの旅館がとりかかったのは、「ビジネスモデル分析」だ。

 決算書の損益計算書の数値を年間宿泊客数で割り、宿泊客一人当たりの損益実績をだした。

 次に売上原価とエージェント手数料を変動費ととらえ、宿泊価格帯別に宿泊客一人当たりの損益モデル一覧表を作成した。

 その結果、この旅館では、宿泊単価一万四千円が損益分岐点宿泊単価であることがわかった。

 それ以下では、宿泊客一人当たりの経常損失が発生するのである。

 当然宿泊単価が下がれば下がるほど損失額は増えてくる。

 そこで現在の宿泊単価別の年間入込客数と各売上高一覧表をエクセルで作成し、それぞれの数値をシミュレーションすることで、平均宿泊単価と連動させたのである。

 現状の平均宿泊単価は一万三千円であった。

 分岐点との差額二千円を二年計画で埋めるという目標をたてたのである。

 そこで入込数の多い価格帯三本に絞り、これらをまず千円アップをめざし、価格帯をひとつ上のランクに移行させることを、全社体制で取り組み始めた。

 この旅館経営者は、その推移を逐一チェックし、予約や営業担当の宿泊価格交渉を陣頭指揮している。