第255回 感謝の一言が人の行動を変える

職場の雰囲気がとても暗い旅館があった。出勤時、下を向きながら小声でぼそぼそとあいさつらしき言葉を言う。

その場にいるスタッフは、顔を向けることもなく、独り言のようにあいさつを一言返す。 ミーティングでは、いつも決まりきった報告に終始し、意見を交わすことなく終わってしまう。

これではだめだと経営者は事あるごとに、まずは笑顔であいさつをしようと言うが、いっこうに改善されない。

当然、接客の場面でも同様の結果が出てしまっている。経営者はスタッフのモチベーションをあげるために、様々な仕掛けを試みた。

まず、全員揃っての朝の声だし、持ち回りでの三分間スピーチ、そしてノルマ達成時の特別手当の支給。その結果はやはり効果なし。

とうとうこの経営者は、零細企業で働いている人材だから仕方がないとあきらめかけてしまった。

スタッフは自分たちの元気のなさを当然ながら気づいている。その原因を尋ねてみると家庭のこと、給料があがらないこと、自分に自信がないこと、そして将来の夢がないことをあげた。

それを聞いた経営者は、各自の人生設計と会社の経営がリンクしいていくような、明確な目標があれば雰囲気が変わっていくのではないかと考えた。

そして、旅館の年間経営計画の作成とともに、目標売上、利益が達成すればそれに伴って人件費もアップさせることを宣言した。ところが予想に反して、給料アップの話に対してすら、無関心、無頓着の人たちがいることがわかった。この「あきらめ」が大きな原因ではないかと思った。

そんななか、目立たない存在の女性スタッフが、ちょっとした親切で客にとても感謝される出来事があった。その場面にたまたま出くわした経営者は、そのスタッフの満面の笑顔を初めて見た。そしてその後、軽やかな足取りで仕事をする姿があった。

この旅館では人からほめられることがあまりに少なかった。そこでそれぞれの立場で、顧客から小さな感謝を得られるためには何をすべきかを問うた。そしてそれを行動指針としたのである。

自分自身の心が晴れやかになること。 それは顧客からの感謝の一言からスタートだと実感した。