第309回 「顧客満足」と「従業員満足」

 首都圏近郊のある温泉地に立地する客室数20室に満たない小規模旅館のことである。 
 
 財務的には毎期フル償却をして経常利益を出し続けている。数年前にリニューアルを行ない投下した資本を順調に回収してきている。
 
 山に沿った敷地に立てられた旅館は、施設的にはいろいろな制約があり、客室や廊下等のパブリックは、かなり狭い。しかし、経営者や女将のセンスが光る演出が随所に施され、マイナス面を十分カバーしている。
 
 客は直のリピート客と口コミ評価の高いネット系エージェントからの送客が大部分をしめ、既存エージェントとの付き合いはほとんどない。
 
 スタッフは20代、30代が中心で、最近流行の元気なラーメン店を連想させる。
 
 そして社長以下全員で接客、掃除、企画等あらゆる仕事を何役もこなす。また、客をどうやったらもっと喜んでもらうかというテーマで、毎週ミーティングを行い、その結果をメルマガで随時発信している。
 
 この積み重ねが、旅館のレベルを少しずつ上げ、コストパフォーマンスの高い宿として定評を得ている。
 
 この旅館ではチェックアウトが12時、チェックインが14時という時間帯を設定しており、このわずか2時間のうちに、いかにして館内を清掃しすべてをリセットするかということで半年取り組んできた。
 
 このような普段客の目に触れることのないことも、ネットで告知していく予定である。
 
 これは顧客満足(CS)だけではなく、同時に従業員満足(ES)も同時にアップさせていかなくてはだめだという経営者の哲学がある。
 
 たしかに顧客満足をアップさせるためには、従業員がその気になり、仕事のやりがいを従業員が感じなくては成り立つものではない。
 
 この旅館は従業員が一生懸命笑顔で働いている。それは働き甲斐を感じているからであり、職場としての旅館のあるべきモデルとなっている。
 
 従業員が言うことを聞かないとか、レベルが低いというばかりで一向に状況が上向きにならないところが多いが、その旅館の「あるべき姿」を経営者自らが、具体的にイメージできていないことがそもそもの原因だ。