第300回 直セールスの結果を公表する

 忘年会・新年会シーズンを間近に控え、地元法人・団体への営業展開が激しくなってきている。

 多くの中規模・大規模旅館は、ここ数年の入り込み構成の推移をみると、明らかに
団体客の減少・個人客の増加にシフトしている。

 個人客は宿泊単価が高くても、二次消費は一般的に期待できないため、旅館としては地元直セールスによる団体・グループ客の獲得に力を注ぐのは当然のことだ。

 しかし、ここで問題が発生している。例えば毎年忘年会を行っている得意先の団体に対し、競合旅館が昨年よりも二千円程度の値引きを提示してきたとしよう。

この料金に魅力を感じたと幹事から告げられた貴館の営業マンは、どのように対応するだろうか?

 ある旅館では、団体客をとられるのを避けるため、低価格でも無条件で受入れることが日常化してしまった。

 その結果、たとえ二次消費が発生しても、基本宿泊単価が個人客と四千円近く差が開いてしまったため、結果として消費単価も個人客よりは低くなり、赤字体質の原因になってしまっているという事態が発覚した。

 これは旅館のオペレーション上、どの部署も「見える化」して、仕事の中身を理解することで、協調する姿が生じているさなか、営業セクションだけが別の方向に向かっていることを露呈してしまった。

 現在この旅館では、週始めの営業会議において、一週間の営業予定と進捗状況を確認するに留まり、そのプロセスや結果については、営業の部署以外には知らされていなかったのである。

 そこで経営者は、今後二ヶ月先のカレンダーを作り、営業マン別に成約結果を全社員に公表する仕組みをとった。

 この結果、営業マンには当然成約の差が生じ、成績の公開に耐えられないと訴えた人がリタイヤするということが起きた。
しかし一方で、もう恥はかきたくないと、本気で取り組んだ営業マンも現れた。

そして何よりも、普段何をやっているのかわからない存在であった営業部署が、他のセクションから身近な存在として、受入れられるようになったことが何よりもの収穫となった。

 旅館の「見える化」に例外を設けてはならない。