第292回 旅館の都合を消すことで共感を得る

  顧客が旅館に宿泊するのには、宿泊目的がある。 例えば夏休みの家族旅行では、子どもたちにいい思い出を作ってあげたいという親の願いがあって旅行に出かけ、たまたまある旅館に泊まったというケースは非常に多いだろう。

 ところが顧客を迎える側の旅館からすれば、繁忙期であり、いかに効率的に業務をこなしていくかということが優先してしまう。

 そんなことが背景にあるなかで、つい顧客に対して雑な扱いをしてしまい、クレームになることがある。

 団体客では許されたことでも、個人客には通用しないことは多い。

旅館側が肝に銘じておかなければならないことは、繁忙期のミスは致命的だということだ。忙しいことがスタッフの顔や態度に出てしまう場面がないだろうか? 多数の利用客が集中することで、顧客がいらいらするくらい待たせることがないだろうか?

 こんなことがあった。8月の休前日、高速道路は数十キロに及ぶ渋滞。普段の二倍以上の時間をかけてようやく旅館に到着。満館状態である旅館は夕食バイキングの時間を顧客に指定した。その時間に合わせて会場にいったところ、さらに長蛇の行列。疲れきってストレスがたまっているところに、スタッフが放った紋切り型の言葉で、この家族のお父さんは完全に切れてしまった。

 これらはサービスを提供する旅館やスタッフの都合であり、顧客には関係のない話である。混雑時は多少時間がかかるのは仕方のないことと割り切るところも多い。

 しかし、多忙なときこそ、しっかりと個々の客への対応をとるべきで、そのためにはどうしたらいいのかをあらかじめ想定して対応をとっている旅館もある。

 客は安価な料金へ集中して流れているだけではない。あくまでもコストパフォーマンスを重視する人たちも多い。それが料金のようにわかりやすく見えるようにすることが重要なポイントである。

旅館の都合で構成されたオペレーションやサービス内容を、顧客が喜ぶ結果に変えること。そして顧客の感情を想定してそれを旅館がどのように対応していくのかを明確に告知する。

これが顧客の共感を得ることができれば、旅館の新たな価値が生まれる。