第290回 旅館の評価を左右する「人の感情」

 旅館に対する顧客の評価は経営者にとって、とても気になることである。特にネット系エージェントからの送客に重点をおいている旅館は評価点の推移とともに、書き込みの内容が見込み客の予約選択における大きな要因となっているだけに気が抜けない。

 さて、多くの口コミ(書き込み)のなかで、極端に評価が低いものに絞ってその内容をみていくと共通点が見えてくる。

 それはその顧客にとって、とても感情を害することが旅館の中で発生した場合、それ以外の全ての評価が一様に低くなっているという現象だ。

 悪い印象を受けた場合には、感情が高ぶり冷静かつ客観的な評価はほとんど期待できない。

 逆に評価が高い場合のコメントを精査すると、提供する側が気にしている提供商品の細部に関する評価、例えば料理で言えば、一品ごとの料理内容や味付け、出来栄えという指摘は非常に少ない。

 それよりも、とてもにこやかで気が利く接客係りだったとか、小さい子供がいるのだが個室でゆっくりと気兼ねなく食事ができてよかったという類のものが多い。

 つまり、評価の高い低いは、いかにその顧客が快適で気持ちよく旅館で過ごすことができたかによるのである。したがってこの尺度でそれぞれの顧客に対して接していくことが求められる。

 ところが商品を提供する側は「一人一人のお客様」という捉え方をする余裕がなくなり、顧客という大きなくくりでもって全てを解決しようとする。

 全体の方向性としてはそれでもかまわないが、実際に現場で接するスタッフにおいては常に個々のお客様の感情を意識しなければランクアップはできない。

 このことを徹底して試行錯誤している旅館は評価が上がる可能性が高い。逆に業務の標準化や効率化のみに重点を置いた旅館は評価が下がる危険を抱えている。

顧客からの旅館への評価というのは単なる点数に留まらない。ひいてはその旅館経営そのものに影響を及ぼすものである。

 旅館業は人と人とのコミュニケーションで成り立つものである。「人の感情」という形のないものをいかに意識して形で表すことができるかが旅館にとって重要な要素である。